サントスの試合を観てきました

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今週木曜早朝(現地時間)にブラジルに戻ってから、丸3日全く外出せず友人マルシオの家で引きこもっていたのですが、上の写真の少年のお陰で今日は遂に外出を果たしました。サントスFCの本拠地であるウルバノ・カルデイラ競技場(通称ヴィラ・ベウミーロ)にて、ブラジル全国選手権セリエA第11節、サントス対グレミオ戦を観戦してきました。滞在中の友人宅からスタジアムまで徒歩数分という近さだったことと、マルシオの恋人の息子シャンジ(写真の少年)が試合を観たがっていたことが重なって、それにつられた僕も一緒に出かけてきました。昼頃に二人で一緒に入場券を買いに行って、その後16時のキックオフに合わせて、彼と僕ら夫婦と3人で再びスタジアムに向かいました。

実は大学卒業時に初めてブラジルを訪れた2012年から約1年間、サントスFC広報部スタッフとして日本向け広報を手伝っていたことがあったのですが、今回はそのサントスの仕事から離れる前の2013年以来のスタジアム訪問でした。完全にいち観客としての訪問だったため、とっても気楽な気持ちで席に着いて試合を観戦しました。ところが試合の内容と結果は気楽どころかその反対で、結果から言うと1対3の敗戦でした。2点先行された後で1点返したが更に1点取られて突き放され、そのまま試合終了という展開だったのですが、前半でサントスのFWの一人が退場になってしまった上、なぜか(ホームだというのに)サントスの選手ばかりイエローカードを貰ってしまうという、殆どアウェイのような試合でした。

というような試合だったのですが、「試合に行ってきました」「結果はこうでした」とだけ書いたって何も面白くないので、今回はブラジルサッカースタジアム観戦の面白さについて少しご紹介したいと思います。

試合結果は上に記したような、サンチスタ(サントスサポーター)の僕にとって何一つ面白いところのないものだったのですが、こういう試合ならではのブラジルのスタジアムの面白さというのも同時に存在するので、それについてお話します。すなわち、現地の観客およびサポーターの観戦態度とリアクションの面白さです。

1、審判への野次

前述したように、本日は前半の時点でサントスのFWの一人(ジェウヴァニオ)が退場になってしまうという一幕がありました。この退場は一発レッドでなく、イエロー2枚での退場であったため、最初のイエローカードが彼に出された時点で既にサントスサポーターの怒りのボルテージは高まっていました。ホームであるにもかかわらず明らかにサントスに不利と思えるような判定が続き、極め付けがレッドカードです。こうなってしまうともう、サポーターの審判に対する野次と怒号は止まりません。「人種差別にレッドカード」のキャンペーンで入場の際に配られたレッドカードを子供も大人も審判に向けて突きつけ、ゴール裏の熱狂的なサポーター達を中心に圧倒的な「審判糞食らえ」コールが送られます(「糞食らえ」というのは意訳で、ポルトガル語では肛門に関する表現になります)。前半終了と同時に審判団はピッチの中央に留まり、盾を持った警察官の一団が迎えに来るのを待ちます。無事に合流すると、彼らは警察官に囲まれ盾に守られる形で控え室へと向かいます。そんな彼らをサントスゴール裏のサポーター集団は強烈な「恥を知れ」コールで迎えていました。サッカーの本場で審判を務めることの大変さには同情も禁じ得ませんが(いやでも今日はカード出し過ぎだった)、他人事と思って観ている分にはこの光景はひとつのエンターテインメントです。こちらの観客のあまりにもストレートで遠慮のない表現っぷりは、ある意味観ていて痛快です。あの躊躇の欠片もない感情の表現っぷりは、個人の感情抑制が強く働きがちな日本のような国から来た自分の感覚にとって、拒否反応よりもむしろ新鮮な驚きとなるのだと思います。もちろんサポーターの行き過ぎた行動によって笑い事で済まない事態に陥ることも少なくなく、これについては言語道断ですが。

2、サポーター同士の野次の飛ばし合い

こちらも前項と同様、シャレにならないところまでいってしまうケースが多々あるのがブラジルで、その点については各自当事者意識を持ってすぐにでも変えてほしいと思います。とはいえシャレになる範囲で争っている限り、この風景もまた一種のコメディです。ブラジルではホーム側の観客とアウェイ側の観客が出入り口も含めて物理的に隔てられており、試合後の退場時間も危険を避けてズラしたりするほどにサポーター同士の対立が白熱します。大事な一戦になると更に騎馬警官の一団が待機してサポーターを牽制するのですが、これがまたなかなかの迫力です。ちなみにアウェイ側は入場券自体の数が少なく、原則としてホーム側サポーターが圧倒的多数を占める仕組みになっています。今日のヴィラ・ベウミーロも南のポルト・アレグレから遥々いらっしゃったであろうグレミオサポーターの一団が、一生懸命太鼓を叩いて歌い叫んで応援していました。で、このサポーター同士が、どちらかに点が入ったりするたびに、わざわざ相手サポーターの方を向きながら嫌味たっぷりに声をあげてみせたり、終いには侮辱のジェスチャーを送ったりするのです。やめときゃいいのに、と毎回思いますが、言って耳を傾ける連中にも見えないので僕は楽しく傍観しています(繰り返しますが、冗談で済む範囲に限ります)。運営側によって空間的に隔てられた彼らが、一生懸命互いをバカにして大声を上げ叫び合う姿は、何かもう色々通り越して滑稽です。何が面白いかって、彼らが本当に全力で罵り合っていることです。何かこういう書き方をすると僕がいかにも醒め切った目線で彼らを冷笑・嘲笑しているみたいに感じられるかもしれませんが、決してそういうことではありません(誤解しないでくださいね)。何というかあの、全く意味も生産性もないような罵り合いに全力で声を出し怒れる、というあの感じが見ていて愛しくなるというか、言いようのない人間臭さを感じさせるのです。人間が生きている感じというか、生命力の弾け合う様というか(もちろんそんな美しい光景では決してないですが)。まあそんな深く語るようなことでもないですが、ブラジル現地観戦ならではの光景として、一応紹介しておきました。平和なスタジアム(もちろん良い意味です)に慣れている日本人の観客にはそれなりに衝撃的な体験になると思います。

3、波のようなスタジアムの空気

最後に、僕が感じるブラジルでのサッカー観戦一番の醍醐味について書きます。それはブレーから判定まで、試合中のあらゆる出来事に対する観客達の正直でストレートなリアクションが発生させる、あの波のように刻々と変化するスタジアムの空気です。例えば僕が日本にいる時に観戦に訪れる鳥取のスタジアムでは、一生懸命飛び跳ねて歌っているゴール裏のサポーター集団と、どちらかというと落ち着いて試合観戦しているメインおよびバックスタンドの観客(ちなみに僕はこちら)とに、わりとはっきりと分かれます。ブラジルのスタジアムもゴール裏とそれ以外との間に温度差があるのは同じなのですが、「それ以外」の席の観客の目の肥え方とリアクションの大きさが日本とはもう全然違います(2011年のクラブW杯決勝を横浜国際競技場で観戦した時、日本の観客の静けさとリアクションの単調さにメキシコやアルゼンチンのジャーナリスト達が驚いていました)。審判にも容赦なく野次を飛ばし、相手チームを全力で牽制し、細かいところまでよく観て好プレーには惜しみなく拍手を送ります(そして負けを確信した時点で躊躇わず帰り始める人多数)。日本ではセルジオ越後さんが忍耐強く「辛口批評」(辛口というより思ったことを素直に言ってるだけだと思う)を続けていますが、ブラジルでスタジアム観戦すると彼の批評のリアリティが実感として掴めると思います。この人々の感情表現の波が作るスタジアムの空気の変化は、肌にビシビシ伝わってきます。サッカー観戦に病みつきになる人が絶えないのは、あるいはこの「波」のせいなのかもしれません。

以上、本日僕なりに感じたブラジルサッカー観戦の面白さをご紹介してみました。個人的には2年前に一度一緒に仕事したガブリエウ・バルボーザ選手(当時16歳)が、2年後の今、18歳の若さでペレが背負った10番を着けてピッチに立っている姿を見れたのが最も感慨深い出来事でした。彼のゴールが見られたらもっと嬉しかったのですが、それはまた次回にお預けとします(その時には欧州に移籍してしまってるかも)。