幻のブラジル代表監督

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前回、前々回に続いてサッカーの話です。

たった今何の気なしにFacebookを開いたら、先程ブラジルのグロボ局から出たばかりのニュースが目に飛び込んできました(ニュースのリンクはこちら)。FCバルセロナならびにブラジル代表で右サイドバックを務めるダニエウ・アウヴェス選手のコメントを紹介するニュースです。そのコメントとは、2008〜2012年にバルセロナの監督として伝説的な黄金時代を築き上げたジョセップ・グアルディオラ(通称ペップ)が、2014年W杯に向けたブラジル代表監督就任に真剣な興味を示していたというものです。同選手によると、「ペップはブラジル優勝に向けた戦略をイメージしていたどころか、頭の中で既に彼のチームを作っていた」とのことです。また「お金の問題について言えば、ブラジルは浪費することなく彼に監督してもらうチャンスがあったんだ。彼自身はあくまで国民が望む結果を達成してから報酬を受け取る気でいたんだから」とも話しています。もちろん、あくまで一選手の発言であり、監督本人が公式に認めたわけではないので、彼の発言内容の全てが真実だと信じているわけではありません(メディアが伝える情報の真実性なんてそもそも「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」としか言えないものです)。ただ、このケースに関しては真実の一片を語っていることは間違いないのではないかと個人的には感じています。

2012年、当時のブラジル代表監督だったマノ・メネゼスが解任された時、グアルディオラはその数ヶ月前に、可能な限りのタイトルを獲り尽くしてバルセロナを勇退したばかりでした。彼自身は当時バルサでの4年間を経て「疲れた」と話しており、休養を必要としていたことは事実です(実際その後1年間休んでいました)。しかしブラジル代表監督というのは、プレッシャーこそありえないほど強大ですがクラブ監督ほどの日常的な激務ではないですし、何より母国開催の同国代表監督という歴史的プロジェクトの持つ価値と魅力は、彼の野心やチャレンジ精神を揺さぶるに十分なものだったのでないかと僕は思っています。またブラジル国内では、メネゼス監督解任の報道後、即座に次期監督としてグアルディオラを推す声が盛んになり、解任翌日にはインターネット上を駆け巡っていたのが上の画像です(右上に小さい字で書いてあるのは「ブラジルが真のフットボールを取り戻すために」といったニュアンスの文です)。僕もこのグアルディオラ待望論を目にした瞬間に「なるほど!」と思って期待に胸を躍らせた一人でした(もっと正直に言うと期待が9割と、大好きな選手であるガンソが同監督の求めるサッカーに合わず外されるのでないかという不安が1割)。母国開催でのW杯優勝という歴史的使命に臨む上で、当時誰がどう考えても地球一番の監督で、最先端のフットボールを世界に示し続けていたグアルディオラを監督に据えるというのは、理に適っている上に壮大で夢のあるプロジェクトに思えました。しかし実際に監督に就任したのは2002年W杯の優勝監督であるルイス・フェリペ・スコラーリであり、同時にディレクターに就任したのが、94年W杯の優勝監督であったパレイラでした。W杯という特別な大会で優勝経験を持つ2人の指導者をセットで入閣させて悲願の母国開催優勝を託す、というのはある意味で分かりやすい考え方ですが、同時に危険な懐古主義と紙一重の選択のように感じてがっかりしたことを覚えています。ブラジルサッカー協会は未来よりも過去に解決策を求めたのです。その後の結果は全世界が目撃した通りです(もちろんフェリペ監督の元でブラジルが優勝する可能性だってあったので、一概に同監督がダメだというつもりは全くありません)。

僕があの監督人事を目にした際に何より失望した(と同時に切なく思った)のは、ブラジルサッカー協会が世界最先端のフットボールの体現者を監督に据えられる千載一遇の機会を有していながら、その道を選ばなかったという、その姿勢と考え方に対してです。そして10年も20年も前の栄光に光明を求めた人事を行い、結果も散々だったわけですから、これでは得たものなど何もないに等しいです。そしてブラジルは相変わらずブラジル人監督にこだわり続け、ブラジル代表は第2次ドゥンガ政権を迎えています。しかもそのドゥンガも肝心の公式大会コパアメリカでは全く結果を出せなかったにもかかわらず、早くも続投が発表されています。

世界各地出身の監督達が世界中で活躍しフットボールの進化と変化を追いかけ続けている中、ブラジルは「王国」という自負とプライドに囚われるあまり、鎖国化してしまっているように感じられてなりません。まあこんなことはわざわざ僕が言わなくても以前から色んな人が言っていることなのですが、僕自身もそのように感じている一人だ、ということを記しておきます。また単にサッカーの話に限らず「過去に囚われて思考・発想・行動が硬直化する」ことの典型例のような気がして、大変教訓的な一件だと感じている次第です。

ところでブラジルは「過去」に囚われていると書きましたが、それは別の言葉で言えば「理想」ということになるかと思います。そしてだからこそ、美学と勝利の両立という究極の「理想」を追い求め、実際に非の打ち所がない実績を作ってみせたグアルディオラこそ、当時のブラジル代表監督に相応しかったのでないかと思います。

まあもう終わった話で「たら」「れば」でしかないのですが、今からでも遅くないのでブラジルサッカー界はもっともっと「新しい血」を入れてほしいなと切に思います。ただでさえ汚職問題で課題山積みブラジルサッカー協会なわけですが、せめて肝心の競技面くらいは世界の人々が「サッカー王国」に求める姿を体現してくれる存在であってほしいものです。実際、このニュースの主役であるアウヴェス自身がこうコメントしています。

「もし君がブラジル代表のためを思っていたら、これ程のチャンスをみすみす逃したりするかい?」

とっくに忘れていた話題でしたが、急にニュースを見たもので、ついついわーっと書いてしまいました。

追伸

メディアリテラシーという意味でもう一歩このニュースを深読みすると、アウヴェスのこの発言は自身がW杯中に代表スタメン落ちの憂き目にあったこととも関係していると思います。ペップが監督だったなら自身も最後まで中心選手として活躍できた上に優勝も果たせていたのではないか、という忸怩たる思いがあるのでしょう。あとは「なぜ他でもないこのタイミングでこの発言を?」「どういう状況・文脈でこのコメントを?」という視点で考えてみることも、この手のニュースを深く理解するためには必要不可欠ですね。