地球の反対側の街

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4月下旬に日本を出発して、80日間を過ごした南米での生活。ブラジル生活に適応し、パラグアイ生活に適応し、その後再びブラジル生活に適応しているうちに、すっかり「地球の反対側」での生活に適応していました。それはつまり、ブラジルやパラグアイという場所が地球の「反対側」から「こちら側」になっていくことと同じでした。車が左運転で道路の右側を走ることも、約束通りに事が進まない方が当たり前の時間の流れ方も、治安の問題ゆえに常にある程度気を張って街を歩く日常も、全てが自分の生活感覚においてデフォルト化して、「世界の前提」のようになっていきました。

そんな風にすっかり南米の感覚に慣れてしまった僕と妻にとって、約3ヶ月ぶりに帰ってきたこの日本の鳥取という場所が、今度は逆に「地球の反対側の街」として目に映るようになったのです。これは自分が生まれ育った鳥取という街をより客観的に知る上で、大学進学のために東京に出た時以来の絶好の機会です。「遠い地球の反対側まで来てみたら、昨日まで僕らがいたあっち側とは全然違う世界がそこにあった」という、滅多なことでは獲得し得ない視座で自分の故郷を眺めることができるのですから、この感覚がリアルな間によくよく鳥取を観察しないといけません。つまり僕が本記事のタイトルにした「地球の反対側の街」という言葉が指す場所は、サンパウロでもサントスでもなければアスンシオン(パラグアイ)でもなく、鳥取なのです。

地球の反対側からこの「トットリ」という街まで「やって来た」僕ら夫婦は、この数日だけでいくつもの静かな衝撃を体験しています。このトットリという場所では、街中にゴミはまず見つからず、道路はきちんと舗装されていて街並みもきれいです。走っている車もきれいなものが多く、品のない音楽(騒音)を一日中流しっぱなしにするような飲み屋もなければ、街を歩いてもならず者の息遣いを感じることもなく、人々はそれぞれ仕事を持って、まあ色々あったりもするのでしょうけれど、概して微笑みながら静かに生活しています。ところがこのトットリという場所は、何とニホンという島国の中で一番人口の少ない「州」で、有名コーヒーチェーン店のスターバックスが遅れに遅れて進出した日本最後の地として話題に上るような場所だといいます。そんな国内で最も非力で規模の小さな「州」だというのに、道路や港湾をはじめこんなにも社会基盤がしっかりしていて街がきちんと整えられているのだから驚かないわけにいきません。そして食べ物は美味しく、水も空気も美味しく、自然が豊かで空は広く、四季も豊かで、概して人間は穏やかなのです(もちろん中には困った人もいるに違いないけれど、それは世界のどこでも同じこと)。

はっきり言って、凄い街です。鳥取という環境の豊かさと、日本という国の凄さを感じます。僕らが暮らすこの街は、地球の反対側の社会に暮らす人間の視座に立って眺めると、もう圧倒的に豊かな場所だったのだということを強く再認識させられます。でももっと本音を言うと、僕も妻もこの鳥取の景色を眺めて感じたのは「驚嘆」や「感動」以上に、それらを遥かに通り越した「不思議さ」でした。「世界の反対側の小さな島国の、こんな小さな県に、こんなに綺麗に整った街が存在していて、そこに少ないけれど人々が暮らしている。うまく言えないけど、何だかとっても不思議な感じがする」という種類の不思議さです。うまく伝わるでしょうか。

(一方で鳥取・日本にいる僕らから見たら、地球の反対側のラテンアメリカに存在する、表現豊かで愛情深いコミュニケーションが至る所で当たり前に行われている風通しの良い人間社会の在り方、また多様な人種や信仰の人々が互いを受け入れあってダイナミックな人間社会を作り上げている様子などは、はっきり言って遥かに日本より進んでいるし、憧れるに価するだけのものだと思っています。なかなか完璧な社会というのは見つからないものです。)

地球が丸いというのは、つくづく面白い事実だと思います。ブラジルに行ったと日本で言うと「反対側かあ!」と言われますが、いざブラジルに行ったら行ったで「反対側から来たのか!」と同じように言われるわけです。ブラジル人もパラグアイ人も日本人も同じ人間であるなんて言うまでもない事実ですが、同時に僕らは彼らの住む世界を「地球の反対側の遠い異世界」のように感じたりもします。この時もうひとつ同時に思い出したいのが、彼らの住む世界にとっては僕らこそが「惑星の反対側」に暮らす「遠い異世界の住人」なのだということです。そう考えると何だか面白いし、少し違った目で日常の風景を眺められるようになります。つまり、日常性の中に非日常性を垣間見れるようになります。こうなると人間、ワクワクします。

誰かが僕らにとって異邦人となる時、僕らもまたその誰かにとって異邦人となるのです。「地球の反対側の街」、鳥取からお届けしました。