たまにはレゲエを聴いてみる。サウダージで涙出る。

前回の「寺子屋」についての記事の最後で、ブラジルのレゲエバンド「Natiruts(ナッチフッツ)」の動画を紹介しましたが、考えてみたら別記事の最後でついでみたいにチョロっと紹介して終わりにするのはあまりに勿体ないので、改めて記事を書くことにしました。

元々このバンドを知ったのは5月中旬、ブラジルで僕ら夫婦を50日間家に泊めてくれていたラマス家の長男、フェリペがライブに誘ってくれたのがきっかけでした。このバンド、実は相当有名で売れてるバンドだったようで、僕はそんなことも全く知らずに誘われるままのこのこ出かけて行きました。知らなかったどころか「夜遅いけど眠くなったらどうしよう」みたいな気分で会場に向かいました(実際、前座の地元バンドが歌っている間は椅子に腰掛けたままテーブルに突っ伏して寝てしまいました)。で、前座バンド数組の後で満を持して登場したのですが、もう最初の瞬間から格というかオーラが違っていました。ただ非常に残念なことに、この日のライブ会場が体育館のような場所で音響が全くコンサート向きでなく、全然音を楽しめない環境でした。さらにブラジルの観客はアーティストと一緒にやたら全力で熱唱するので、これはもう彼らの音楽を純粋に楽しめるような状況ではとてもなく、妻に至っては耳が痛くなってしまって会場の外のベンチに一緒に逃げる羽目になってしまいました。

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という、なんだか非常に勿体ない夜だったのですが、帰国から一週間近く経った昨日、改めてYouTubeで彼らの曲を聴いてみたら、めちゃめちゃイイじゃないですか!それで今更ながら熱心に聴いているというわけです。簡単にプロフィールを見てみたら、1996年活動にブラジリアで結成されたバンドで、構成は軸となるメンバーが2人、その他にライブを共にするメンバーが5〜9人くらいとなっているようです。個人的にはリオデジャネイロを舞台にしたアコースティックのシリーズがたまりません(下の写真がそのライブの様子)。こういう肩の力が抜けた曲調の穏やかなアコースティック音を夏に聴いてると、何だか涼しくなってきます。

まあ、音楽の話をするのに写真や情報ばっか紹介してても面白くないので、曲の紹介に入りましょう。今回は何となく僕が気に入った2曲を紹介します。まず1曲目。『Andei só』(独りで歩いた)というタイトルで、歌詞を見ると坂本九の『上を向いて歩こう』の日本語版と英語版を足して2で割ってブラジル風味にしたみたいな趣を感じます。ではどうぞ。

いかがだったでしょうか。ナッチフッツ、いいでしょう?ブラジル音楽やレゲエ自体に詳しい方以外は殆ど知らないバンドなんじゃないかと思いますが、気に入った方は是非日常のプレイリストの中に加えてみてください。というわけで2曲目。1曲目は昼のリオデジャネイロをバックにして歌っていたので、今度は同じ場所で夜歌っている曲にします。夜だけによりロマンチックな曲で、タイトルは『Você me encantou demais』(君の魔法にかけられた)です。歌詞の一部を紹介すると、

僕が君に願うこと

愛の神々が君を守ってくれますように

君の微笑みの夏がいつまでも終わりませんように

あの生きる恐怖がある日大きな愛に変わりますように

だそうです。こりゃすごい。甘く、熱いです。それをこんなメロディーとリズムで歌い上げます。はい、どうぞ。

いかがだったでしょうか。既にファンになった方もおられることでしょう。分かりますよ。

さて、最後にもうひとつ、最近ブラジルで出会ったもうひとつのレゲエな曲をご紹介して終わりにします。こちらもきっかけは友達のフェリペで、彼の車に乗っていた時にラジオでかかっていました。夫婦で気になりつつも、そのまま歌詞も曲情報が分からないまま帰国したのですが、記憶を頼りに一緒にネットで探したら見つかりました。ていうかめちゃくちゃ売れてる曲でした。こちらです。ちなみに英語曲です。

「MAGIC!(マジック!)」というカナダのバンドの『Rude』という曲だったようです。メキシコからブラジルに会いに来てくれた友達のりーくんの話では、メキシコでもそこかしこでこの曲が流れていたそうですが、日本ではどうだったのでしょうか。曲のタイトルである「rude」は「失礼な、無礼な」という意味の英語なのですが、どうやらガールフレンドとの結婚を相手の父親に申し込んだらにべもなく「NO」を突きつけられ、それに対する「おっさんそいつはあまりに無礼だろう」という気持ちを歌い上げたという一曲だったようです。考えてみたら、ありそうでなかった感じの歌で面白いですね。恋愛ソングで「親父に挨拶」はなかなか出てこないですし、ウェディングソングになるともう大抵は挨拶を済ませた後ですしね。

しかし僕はこのレゲエというジャンルに関して全くの素人なのですが、このリズムいいですね。夏に聴いたら涼しくなって、冬に聴いたら温かくなりそうな感じがしませんか?鳥取の冬はなかなか寒くて厳しいのですが、今年はちょっとこういうレゲエなポップ(ポップなレゲエ?)を流してみようと思います。

ところで、今こうして書いてきて改めて感じることですが、やはり音楽というのは途轍もない「思い出のアルバム」機能を持っていますね。昔から旅に出るたびに現地でCDを買ったり、現地で友人に教えてもらった曲を覚えて帰ったりするのですが、そうするとまだ知らなかったその曲の真っ白なイメージが、旅の記憶でいっぱいになって思い出や感情が高い鮮度で保存されるのです。今回僕ら夫婦は合計80日間南米に滞在したわけですが、そもそもこの旅を可能にしてくれたのは、今回紹介した音楽との出会いのきっかけをくれた、フェリペという友人がお家に招待してくれたことでした。海辺の街の船着場で小さなTシャツ屋を営む24歳の青年の好奇心とホスピタリティ、そして厚い友情が全てを可能にしてくれたのです。夜空を見ながら屋上で語り合ったり、夜遅くに海辺にドライブに出かけたり、昼前の海岸を散歩したり、そうしたひとつひとつの瞬間が音楽と一緒に思い出されてきました。実は一昨日、地球の反対側で経験したあらゆる旅の記憶がまるですべて夢だったかのように感じられて、それらを忘れていく恐怖で激しく動揺した瞬間がありました。日記や写真を丁寧に振り返れば思い出せることだと思って後で安心したのですが、音楽というのはそれらを凌ぐ特別なパワーを持っていますね。

最後の最後の別れの夜、恋人のレチシアと一緒に僕ら夫婦をバスターミナルまで送り届けてくれたフェリペは、僕らがバスに乗り込む直前、顔を真っ赤にして号泣しながら僕らを熱く抱きしめてくれました。男の友人から頰にキスされたのも、それに同じようにキスで応えたのも、僕の人生では初めてのことでした(ブラジルでは本当に親しい友人の間では普通に行われることです)。僕も妻も泣きながらバスに乗り込みました。

何だか思い出すと泣きそうになります。これが噂の「saudade(サウダージ)」か、という感じです。これはポルトガル語の中でもとってもブラジルらしい単語で、「懐かしさ」とか「不在を切なく想う気持ち」とか、そういうニュアンスの言葉です。なかなか訳しづらい単語として有名ですが、感覚としては誰しも味わったことのあるものだと思います。

そんなわけで、旅と友人が思いがけずもたらしてくれたレゲエという未知の音楽ジャンルが、僕の人生に今までなかった色を加えてくれるとともに、大切な旅の思い出を守ってくれることになりました。これを機にレゲエを深めてみよう、とまでは今のところ思いませんが、今回出会ったこの曲達は、旅の記憶と感情が消えてしまわないように、この夏の間繰り返し繰り返し聴こうと思います。

はい、レゲエの話でした。


【MAGIC!『Rude』収録アルバム】

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