前回に続いて映画の紹介をします。題名は『ブエノスアイレス恋愛事情』。地元のレンタル屋でスペイン語映画を探して借りてきた1本です。帰国してから次第に薄まっていく自分の中のラテンアメリカの記憶・イメージ・感覚を保つ上で、映画というのはとっても有難い存在なのです。ちなみに映画のスペイン語原題は『medianeras』(メディアネラス)といいます。この原題の意味と邦題の由来はこちらの公式サイトで説明されていますが、medianerasはアルゼンチン特有の言葉ということで、僕も初めて知りました。ラテンアメリカは地続きで同じスペイン語圏であっても、国や地域によってオリジナルの単語や表現が色々あります。それらを知ることは、ラテンアメリカ世界を知っていく上での楽しみでもあります。
というわけで、予告編です。
一言で言えば以下のような話です。
近所に住んでいるのに、互いを知らない男女の話。
描くタッチは淡々としていますが、この2人の人生が少しずつ接近していく様子が楽しい映画です。
ところで僕はアルゼンチンにはまだちゃんと行ったことがないのですが(イグアスの滝を見るためにブラジルから陸路で1日入国しただけ)、スペイン語に関して言えばアクセントが独特なので有名な国です。あとはラテンアメリカの中で最もヨーロッパっぽい国としても有名ですね。そのせいかブラジルを含む他のラテンアメリカ諸国では「欧州気取りで調子こいててウザい」みたいなことをよく言われます。曰く「ラテンアメリカ人なのに自分達のことヨーロッパ人だと思い込んでる」とのことです。アルゼンチンの隣国であるブラジルはおろか、ラテンアメリカ最北のメキシコでも全く同じことを言われていました。今回は映画の紹介が目的なので敢えてこの問題を掘り下げることはしませんが、いずれにしてもラテンアメリカ全体で「ヨーロッパ」というものに対して一種の屈託があることをひしひしと感じる一件です。ちなみにアルゼンチン人の友達は僕にも数人いますが、他のラテンアメリカ諸国と同様、気さくで親しみやすくて心も温かく、いい人ばかりです。
以上のような前提があるせいなのかもしれませんが、映画を観て僕も妻も感じたのは「ヨーロッパの映画みたい」ということでした。僕は欧州には全く行ったことがないので知ったようなことは何も言えませんが、自分が知っている欧州の多くの映画と似たような印象を実際に受けたのです。もう少し具体的に言うなら、登場人物達の「迷ってる感」でしょうか。心の底に流れる虚無感というか、人生に深い意味や目的、充実感を見出せず、袋小路に入ってる感じというか。少なくとも映画で描かれるヨーロッパでは、そんな雰囲気が漂っていることが多いというのが僕の印象で、この映画も同じ雰囲気を持っていたのです。
みたいなことを書くと何だか暗くて面白くなさそうな印象を受けてしまうかもしれませんが、そんな虚しいだけの作品だったらわざわざ紹介しませんのでご安心ください。2人の主人公は色々病んでますが、ついつい応援したくなるような愛すべき男女です。人を孤独にする現代社会を健気に生きる2人の姿は僕ら一人一人の姿と重なるはずですし、何より最後には笑顔が待っていますので、是非ご覧になってみてください。迷える現代の若者のささやかでリアルな希望を描いたオシャレでキュートな映画です。スペイン語に興味のある方にもオススメです。
最後にこの映画のスペイン語版映画ポスターが面白いので紹介します。
本編の内容を知っていると、ますます納得のデザインです。というわけで、是非観てみてくださいね。