僕の留学体験記

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続・留学の話。「留学の醍醐味と意味は、それまでの自分の世界観が崩壊してしまうこと」という話でした。今回は僕自身の体験談を書きます。

僕は2009年8月から、1年間の国費留学プログラムの奨学生としてメキシコに渡航しました。プログラムへの応募にあたっては計画書の提出が求められたこともあり、1年間の滞在で実現したいことを当時の自分なりに一生懸命言語化して、A4で10枚の文書にまとめました。半年語学学校に通った後で現地の大学の文学部に移ってラテンアメリカの文学や映画について学ぶ、というのが当初の計画です。他にも当時個人的に注目していたメキシコの新興映画プロダクションがあって、そこに見習いとして入れてもらって映画作りの勉強をするというのも大目標の一つでした。これに加えて、密かな夢としてタコス屋で働く機会を得ることも何となく思い描いていました。

その後実際にどうなったかというと、まず受け入れ先であるメキシコ政府側の不手際のゆえに学部編入の話はあっさり立ち消えになりました。元々半年後に学部編入の前提で留学していたので、これには少々驚きました。次に、希望していた映画会社の見習いですが、こちらは何といきなり面接に通ってすぐにデスクを貰えることになりました。逆の意味で衝撃でした。しかし情けないことに、望んでいた場所に受け入れられてスペースも与えられたその瞬間に初めて、その後の具体的な行動のビジョンも計画も全く持ち合わせていなかったことに気付いたのです。自分がいかに勢いと気分だけで飛び込んでしまったかという事実に愕然としました。それでも留まって何かしら食らいついてやっていくという手もあったのですが、具体的な方向性が定まっていない以上、あまり現実的な選択肢とは思えず、いつか改めて出直すことを決意してその場を辞しました。最後はタコス屋の夢ですが、蓋を開けてみれば一番理想的な形で実現したのがこれでした。さらに言うと、プログラム開始から9ヶ月後に、僕は残り3ヶ月分の奨学金を辞退して一度帰国し、全くの一個人として再入国してから屋台のタコス屋として働く流れになったのです。これは渡航前には全く予想もしていなかった展開でした。どこかでのタコス屋で働く機会を得ること自体は密かにずっと願っていましたが、まさか奨学金を蹴ってフルタイムのタコス屋になるとはさすがに想像だにしていません。

他にも、留学前には予想もしていなかった未来へと僕を導くことになる決定的な出来事が幾つかあって、その最たるものが下記の3つです。

  1. 現地の語学学校で未来の妻と出会ったこと
  2. メキシコの日本人移民史の物語と出会ったこと
  3. カズオ・イシグロの『日の名残り』を読んだこと

それぞれ話すと長くなるので詳細は割愛しますが、留学当初の計画には全く含まれていなかったこの3つの出来事が、その後の僕の人生の方向を完全に決定付けることになりました。最初に述べた「世界観の崩壊」という意味では特に3のカズオ・イシグロのインパクトは圧倒的で、『日の名残り』ショックはその後数年、僕の人生を支配しました。

体験談は以上です。今改めて振り返っても、当初の予定通りにいかないことだらけでした。当然苦しい時もありました。でも(乗り越えた今だからこそ言えるのかもしれませんが)、確かに充実感がありました。実際あれから6年経って、当初思い描いていたものより遥かに豊かで深みのある人生になりました。

というわけで留学先で何らかの「挫折」や揺れを経験している人は、是非そのままブレにブレて、揺れに揺れてください。特に台湾留学中の寺子屋門下生、球児君。君はもっとでかくなる男だ。色んな衝撃を受けながら、彼の地で迷い揺れて生きてくれ。

以上、僕の留学体験記でした。


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