学校はいつから在るか、小学生に聞いてみる

IMG_20151212_124551-1

少しばかり前の出来事ですが、寺子屋でお馴染みのシャチ君、ゾウ君、コウモリ君の3兄弟に、学校教育制度の起源について話そうとした日のことです。

「なあ、学校っていつから在ると思う?」

とまず最初に尋ねたら、数秒の沈黙の後、末っ子のコウモリ君が一言、こう言い放ちました。

「月曜日から金曜日まで」

ぐう。思ってもみない回答でしたが、これは紛れもなく「正解」になります。僕が尋ねたかったのは「日本における公立学校の歴史的起源」という意味での「いつから在るか」だったのですが、前述の問い方を見ていただいても分かる通り、僕は実際にはそんなこと一言も言っていません。「日本の歴史の中で、今君達が通っているような学校っていう場所はいつ誕生したと思う?」とは尋ねないで、単に「学校っていつから在ると思う?」と尋ねたわけですから、コウモリ君の回答にはどこにも間違いが見当たないわけです(強いて言うなら「金曜まで」というところまで答えたのは「余分」だったかもしれませんが、これはむしろ彼が質問の意図を汲んで「親切」な答え方をしてくれたのだと捉えるべきでしょう)。小学2年生の世界観というのを見事に見せつけられた感じがして、ちょっとした衝撃を受けました。そこで気を取り直した僕は、表現を変えて改めて問い直すことにします。

「コウモリ君、正解!確かに学校は月曜から金曜までだ。いやうん、正解だわ。でな、実は僕はもうちょっと別のことを聞きたかったんだけど、僕の聞き方がよくなかったけえ、今のはコウモリ君が正解したっていう上で、もう一回質問をやり直させてちょうだい。」

と、お断りを入れた上で、今後はしっかり伝えるぞと思ってもう一度尋ねます。

「今、君らは月曜から金曜まで学校に通っとると思うけど、その学校っていう場所は、そもそもいつから在るん?ていうか、いつできたん?」

細かい表現に若干の記憶違いはあるかもしれませんが、内容としてはほぼこんな感じの尋ね方をしました。この3兄弟を相手にするときは大体いつも「先に言ったもん勝ちクイズ」形式で問いかけているので、「歴史」「起源」「存在」「制度」みたいな、末っ子コウモリ君のボキャブラリーに含まれてなさそうな単語や概念は使えません。とはいえ、核心を表現しきれない苦しさは感じながらも、一応ニュアンスを押さえた問い方はできたはずです。さあ、これできっと質問の意図は伝わるはずだ!と思ったら次の瞬間、今度は一番年上のシャチ君(6年生)が大きな声でバシッと回答しました。

「124年前!」

!!??

あまりに具体的過ぎる答えがあまりに速く、かつあまりにも自信満々で返ってきたことに、一瞬こっちの頭がフリーズしかけました。124年前って何年だ?仮に明治維新から数えたら大体何年後くらいだ?ていうかなんでその数字?みたいな感じで、幾つもの疑問が走馬灯のように脳内に浮かんできましたが、回答者であるシャチ君の立場と思考回路を想像したら、ひとつの仮説が浮かび上がりました。

「なあ、それもしかして、シャチ君達が通っとる学校のできた年か?」

「うん!!!」

いやー。やられた。なるほどね。小学6年生。このシャチ君という少年は言語処理能力や文脈理解力がとっても高く、そこに関してはその辺の大人も顔負けっぽい場面がチラホラあるのですが、今回の答えはある意味で実に「子供らしい」ものでした。つまり、概念的な一般論でできた共同幻想の世界でなく、具体的な事実だけでできた「見たまんまの世界」を生きているわけです。というか、要するに僕の質問の仕方が相変わらず甘かったということです。このシャチ君の回答もやはり、全く間違っていません。彼らにとって「学校」とは紛れもなく「自分たちが今通っている、あの学校」のことであり、「それ」が「いつできたのか」と問われれば、「その学校の創立年」を答えればよい。至極真っ当な論理です。間違いない。一方、僕はまたも大きく空振りしたわけです。

一応立場としては僕の方が彼らに「センセイ」と呼ばれる側にいるわけですけれど、こういう形で自分の知性の限界に直面させてくれる小学生達の存在は、僕にとっても極めて有難い存在です。特に母語である日本語で話している時なんて、自分が発する言葉の精度に対してどうしても詰めが甘くなってしまいがちなので、一層こういう機会は貴重です。自分の側で身勝手に前提にしている文脈に対して無自覚になってしまってる状況(「言ってるつもり」でも実際には言ってないとか、「そこは前提だろ」と言いたくなってしまうけれど実際には全然共有できていないとか)って、それこそ無自覚なわけですから「気付く」ことって難しくて、こうやって「気付かされる」機会を如何にしっかり捕まえられるかが、己の知性の限界を更新し続けられるかどうかの一つの分かれ目になってきます。怖いことです。ほんと怖い。

というわけで、この日は完全にやられました。小学2年生の語彙や知的容量の範囲内で様々な事象や概念を説明できるような表現力・想像力が、まだまだ僕には圧倒的に足りていないということです。「月曜から金曜まで」て。いやいや、参りました m(_ _)m