ナイキフットボールのCMが相変わらず面白い

maxresdefault

2010年代に入ってからYouTubeの動画に広告が入るようになりましたが、9割以上の広告には見向きもせず、できるものは即座にスキップするのがすっかり習慣になっています。それでも中には「おっ」と目を引かれてそのまま最後まで視聴するものもあって、一昨日久しぶりにそんな広告動画が飛び込んできました。既にご覧になった方も多いかもしれませんが、今月公開されたナイキフットボールのプロモーション動画です。サッカーに興味のない方向けに簡単に説明すると、以下のようなストーリーです。

現役のポルトガル代表で世界トッププレーヤーの一人であるクリスチアーノ・ロナウド選手が試合中にボールボーイのイギリス人少年チャーリーと衝突し、その際にお互いの人格が入れ替わってしまう。

で、こちらがその動画です。

日本語字幕対応してますが、字幕がなくても大体内容が分かるように制作されているのは流石グローバル企業ですね。夢のあるストーリーです。種目の別を問わず多くの有名スポーツ選手が「夢を与えたい」みたいな不思議なことを言っているのには昔から全く共感できないのですが(「与えたい」って餌かよ)、こういう形で夢を「見せて」くれる作品には素直に共感できます。僕はナイキフットボールが世に送り出すCMは単なる広告の枠を超えた短編映画だと思っているのですが、やはり映画には夢を見せる力があります。

それにしてもナイキという会社のブランドコミュニケーションは本当に見事です。プロモーション動画は観ていてワクワクするものばかりですし、キャッチコピーもシンプルで力強いものが多く、実際僕は10代の頃からナイキのコピーに随分励まされてきました(「自分解放」とか「いつか遊びがモノを言う」とか)。

しかも、そもそもアディダスの独壇場だった世界サッカー市場にUSAのスポーツブランドがここまで割って入ったのって結構すごいことで、そのマーケティング戦略も秀逸でした。すなわち、アディダスのお膝元であるドイツ代表を「理性的で組織的な欧州サッカーの象徴」と定義して「敵」とし、その対立軸として「リズム感に溢れた創造的で奔放なサッカーの体現者」であるブラジル代表を徹底的にサポートするという戦略です。「世界中が注目するワールドカップの決勝の舞台でドイツ代表(アディダス)とブラジル代表(ナイキ)が対戦し、ナイキ(ブラジル代表)が勝つ」というストーリーを描いて達成目標とし、徹底的なプロモーションを行ったのです。しかもそのストーリーは2002年の日韓ワールドカップ決勝で本当に実現してしまいます。ロナウド、ロナウジーニョ、リバウドという、まさに創造的でブラジルらしいサッカーをする選手達を主力に擁するブラジル代表が、質実剛健なオーラを纏ったドイツ代表を見事に倒して世界チャンピオンになったのです。あの瞬間、サッカー市場におけるナイキの地位は完全に確立されました。(参考文献:大野貴司著『スポーツマーケティング入門 理論とケース』

ちなみにそのブラジル代表マーケティングで有名なのが以下の2つの動画作品です。

今改めて観ても本当に面白いし、ワクワクします。

と、ここまでナイキのマーケティング・ブランディング力を絶賛してきたわけですが、同社がその方面に優れているのはある意味当然です。なぜならそもそもナイキという会社は企画・デザイン・マーケティング・ブランディングに特化したスポーツ用品メーカーで、自社工場を持たずに生産は外部委託で行っている、いわばアイデア企業だからです。そのため、肝心の製品の品質についてはブランドコミュニケーションで発揮しているほどの一貫性は持てていないというのが僕の率直な印象です。ナイキのブランド構築力は業界において他の追随を許さない勢いと迫力がありますし、デザインの点でも素晴らしいですが、ものづくり企業としてはもう一歩改善の余地があると言えるでしょう。その点、我らがアシックス社のような典型的なものづくり企業とは根本的に性質の異なる企業なのだと思います。余談ですが、ナイキの前身であるブルーリボン社はもともと、アシックスの前身であるオニツカタイガーの靴の米国内販売代理店でした。今となってはあまり一般的には知られていない話ですが、日本人なら知っておいても損はない実話です。もっと言えば、アシックス創業者の故・鬼塚喜八郎氏は鳥取が輩出した偉人です。

おっと、ナイキの話をしていたのに鳥取の話になるところでした。鬼塚さんについてはまた改めて書きます。今回はナイキフットボールのプロモーション動画が面白い、という話でしたので、最後に動画をもう一つご紹介して終わりにします。それではまた。