癌の治療と撲滅を目指す少年へ

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2017-01-16-14-21-26

昨年、医療の道を志す一人の男子高校生から進路の相談を受けました。

曰く「医学部と薬学部で進学先を迷っている」と。こういう時、その辺の普通科進学校の殆どが「成績が良いなら医学部目指せ」「受かるなら医学部行った方がいい」って当たり前のように繰り返すようで、彼の学校でも御多分に洩れずそのような「進路指導」が常態化しているとのことでした。学校や塾の合格実績になるという倒錯した大人の事情や、より「ステータス」の高い方を無条件に良しとする浅薄な人生観で一生の選択を左右されるなんてたまったもんじゃありません。

彼が直面する二択の問題に答える前に、まず彼が医療の道を志す理由を改めて尋ねてみました。すると返ってきたのは「癌の治療に貢献したい」という明確かつ強固な動機でした。きっかけは身内の闘病生活に寄り添ったことだそうです。こういう少年にとっては偏差値もステータスも大した問題ではありません。だから「医学部か薬学部か」という問いに対しては、極端な話「どっちでもいい」というのが最適解ということになるでしょう。

その上で僕が彼に伝えたのは「医学部か薬学部か」という問いの設定自体が間違っている、ということです。なぜなら彼の目的は「癌の撲滅」であって、そこから単純に逆算すれば方法は必ずしも医療従事者として関わる道だけではないからです。例えば事業家としてビジネスをツールにする方法もあるし、富豪になって研究費を提供する側に回る方法もあるし、あるいは癌の大きな原因でありそうなストレスを軽減することで多くの人の癌予防に貢献する道だってあるわけです。とにかく最終的なゴールが明確なら、そこから逆算して自分なりの「最短経路」を見出す作業はしてみてよいはずです。

とはいえ視野も知識量も限定的ないち高校生の立場でその最適解を見出すことは容易ではありませんし、そんなの相談を受けた僕だって分かりません。そこで彼に伝えたのはこういう方法です。

現在、癌との戦いにおいて全人類中で最も勝利への可能性を持った10人を調べて探し出し、全員に連絡してアドバイスを貰う。

癌との戦いというのは全人類規模の戦いなわけで、その戦線にいるのは当然日本人だけではありません。自分を取り巻く身近な世界だけを基準に方向性を考えるなんてナンセンスでしかなく、はじめから「人類と癌の戦い」という発想で考えるべきだと思ったわけです。で、我らが人類チームの中でも最強の精鋭というのは必ず何人か(あるいは何十人か)いる筈なので、「その道のトップランナー」である彼ら彼女らに聞けばよい、という単純な考え方です。日本人がいれば日本語で連絡して実際にすぐ会いに行けるか聞いてみればいいし、海外の人ならとりあえず英語で連絡してみることができます(そういう時のために英語の読み書きを勉強しているのですから)。

で、その精鋭達からの助言をもとに、あとは自分自身の個性・適性や希望と突き合わせて、最終的な方向性を決めて動いたらいいわけです。

極論ではありますが、極論はシンプルです。そしてシンプルは強いです。

この高校生とはその後も何度かやり取りをしました。趣味と仕事とのバランスや、家族ができた時に送りたい人生など、仕事以外の部分での彼の将来へのイメージも聞いた上で、また違う角度の提案をしてみたり、例の「薬学部か医学部か」問題に対するフォローとして、地元の薬局見学の機会を作ったりもしてみました。最終的に、彼自身が納得できる進路選択をして、そこに向かって努力をしていくことになりました。その後しばらく連絡を取っていませんが、自分の人生としっかり向き合って真剣に悩んだ経験が、どんな方向に行くにせよ糧となっていてくれればと願います。

以上、「進路指導」に関して同じような方向性で悩む中高生やその保護者の方の参考になればと思い書いてみました。また、僕も癌で身内を亡くした経験がある人間の一人として、癌との戦いを終わらせてくれる英雄の登場を待ち望んでいますし、あるいはその育成に僅かでも寄与できればいいなと思っています。