PPAPが開いたドイツ語の扉

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昔から巷の話題には疎いのですが、2016年に大流行したピコ太郎さんの楽曲『PPAP』を、暮れに初めてYouTubeで視聴しました。YouTube内で「PPAP」とキーワードを入れて検索して、まずオリジナルの動画を観たのですが、検索結果のリストを少し下までスクロールすると、海外のアーティストと思しき人物による「PPAP Ballad Remix Cover」なるものが表示されていたのです。なるほどこういう現象まで発生してるのか、という驚きと共にその動画を開いてみたところ、これがなかなか見事だったわけです。こちらの動画です。

ちなみにその翌日、寺子屋に通ってくる小学生達にもこの動画を見せたら既に知っていました。なんでも彼はこの動画がきっかけで日本の音楽番組にも出演したそうで、それをテレビで観たそうです。そもそもその前に『PPAP』がどんな曲なのか僕の前で実演して教えてくれたのも寺子屋の子達でしたし、この小学生達は僕と社会を繋ぐ貴重な架け橋なのかもしれません(数年前には『妖怪ウォッチ』のことを事細かく教えてくれました)。

話を戻すと、この動画の青年の名はMoritz Garth。ドイツ人のようです。結局この『PPAP』の動画は1、2回観ただけで終わったのですが、この動画の最後に紹介されていた彼の別の曲をチラッと聴いた瞬間に、その時隣にいた妻も含めて「ん?!」と瞬く間に興味を引かれ、そのまま彼の個人ページを開くに至ったのです。実に見事な方法で捕まえられてしまいました。まんまと彼の術中にはまったわけですが、僕ら夫婦にとっては望むところで、彼の曲、実際聴いてみたらとてもいいんです。2つ紹介するので、ちょっと流して聴いてみてください。

この青年、顔はどちらかというと可愛らしいですが、歌声はなかなか渋いですね。凄いギャップ。

音楽というのは好みの世界なので好き嫌いは分かれると思いますが、僕と妻には彼の曲は大ヒットでした。個人的に特にヒットだったのは、まさにタイトルにも書きましたが「ドイツ語の扉を開いてくれた」ことです。簡単にいうと、理由はわかりませんが彼の歌声と曲が、僕の人生においてドイツ語の楽曲で初めて「ドイツ語いいな」と思わせてくれたのです。

7年前のメキシコ留学時代、語学学校にドイツ人のクラスメイトが2人いました。そのうちの一人にドイツ語の簡単な挨拶だけ習って、以来彼女と会う度にドイツ語で挨拶を交わしていたのですが、その後それ以上僕のドイツ語世界が深まることはありませんでした。また僕はドイツ人作家のエーリッヒ・ケストナーを敬愛しており、彼の代表作『飛ぶ教室』は既に何度か読み返して映画も観ているのですが、それで「ドイツ語できるようになりたい!」とまではならないし、他にも『ソウル・キッチン』という大好きなドイツ映画を何度も繰り返し観ているのですが、これも僕のドイツ語熱に火をつける結果にはなっていません。そもそもドイツ語の音や響きそのものに対して、面白がることはあっても「惹かれる」ということがなぜか昔から起きないのです。ブラジルポルトガル語やイタリア語なんかは、もう聞いてるだけでワクワクしたりドキドキしたりして、それを自分が話せないことが何とも歯がゆく悔しく感じられたりした経験があるのですが、ドイツ語に関してはそれがさっぱりないのです。

ところがです。このMoritz Garth青年の曲を聞いた時に初めて、ドイツ語の持つ響きに心を動かされた感覚があったのです。繰り返しますが、理由は分かりません。タイミングとフィーリングということになるのでしょうが、ともかく、ドイツ語という言語に対して一気に親近感が増したわけです。

以来、妻と彼の曲をよく部屋で流しています。うちの8ヶ月の長男も気に入ったようで、彼の曲に合わせて楽しそうに体を揺らしてリズムに乗っています。

何が言いたいかというと、『PPAP』偉大です。そしてインターネット、偉大です。こういう形で世界が広がっていくのがインターネット時代の最高の面白さのひとつだと、改めて実感させられます。特に僕は学生時代からYouTubeで発見した無名のアーティストの楽曲にハマることも少なくないので、この時代を生きていることがとても有難いです。

最後に語学の話をすると、僕はこれまで英語・スペイン語・ポルトガル語とやってきて、次に習得するのはおそらくイタリア語です。で、その後はヒンディー語・アラビア語・韓国語(あるいはフランス語)らへんをやっていこうと思っているのですが、妻は以前からドイツ語をやりたがっていて、今回のMoritz青年との「出会い」でその意欲はさらに高まった模様です。おそらくそのうち習得するでしょう。僕は今まで何だかんだでそこまで興味ありませんでしたが、彼の曲を聴いて少しずつ耳を慣らしていけば、あるいは妻にも教えてもらって少しはできるようになるかもしれません。そうなれば、いつかドイツにケストナーの記念館を訪ねても、より充実した旅になる筈です。そういう諸々の可能性も含めて、『PPAP』を世に送り出したピコ太郎さんと、この曲を世界に広めたジャスティン・ビーバー氏に感謝です。

妻と長男と一緒に、明日もまたMoritz青年の曲を聴くと思います。