ガブリエウ・バルボーザ

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前回の記事で、2年ぶりにサントスFCのホームゲームを観戦してきた話を書きましたが、同記事の最後の部分で一言だけ触れたサントスの選手、ガブリエウ・バルボーザ(Gabriel Barbosa)について改めて紹介しておきます。(ブラジルサッカーファン、あるいは世界の新人発掘に余念がないコアなサッカーファンの間では既に立派な有名選手ですが、日本の一般的なサッカーファン、また特にサッカーファンというわけでもないこのブログの読者の方にとってはまだまだ「誰?」という選手だと思います。)

彼はブラジルではガビゴウ(Gabigol)という愛称で知られており、これは「ゴール(gol)いっぱい決めるガビ(Gabi:Gabrielの短縮系)」みたいな意味です。若手の育成に定評のあるサントスFCの下部組織出身で、16歳の若さでトップチームに昇格しプロ契約を結びました。プロ契約と同時に彼は登録名をガビゴウから本名のガブリエウに改めたのですが、その理由を会見で聞かれた際に「プロとしてはまだひとつのゴールも決めていない僕がGabigolを名乗るわけにはいかない」とコメントした姿が印象的でした。そんな彼のプロデビュー戦は2013年5月2日のブラジル全国選手権フラメンゴ戦で、実はこの試合は彼の先輩にあたるネイマールがサントスFCのユニフォームを来て出場した最後の試合でもありました。この試合でのガブリエウは交代選手として23分だけの出場だったのですが、若くして数々のタイトルをクラブに残して今まさにブラジルを去らんとしていたネイマールと、そのネイマールより年齢的には更に5ヶ月早いプロデビューを果たした彼が一瞬でも同じピッチに立った姿は、ひとつの歴史の終わりと始まりを感じさせるものでした。

あれから2年。サントスの選手として18歳になった彼の現在の背番号は、あの王様ペレがつけていた10番です。残念ながら時にチーム内の競争で苦戦したりと、デビュー当時に期待されていた「ネイマールの後継者」としてのインパクトを圧倒的に残すほどの活躍はまだできていませんが、それでも昨年はクラブでの公式戦56試合で21ゴールを記録した他、年代別代表にも続けて選出されており、最近ではイタリアの名門(近年すっかり凋落していますが)ACミランが興味を持っていると噂されるなど(サッカー界では実際に契約が結ばれるまではあらゆる報道はただの噂みたいなもんですが、そうした話題に上ること自体がひとつの評価でもあったりします)、その実力と潜在能力は今も高く評価されています。サントスに関して言えば、ネイマール退団(および彼と黄金期を共にした若きタレント達の退団)と時を同じくしてクラブが財政難に陥ってしまい、名選手の獲得・維持に苦戦していることが、ガブリエウの成長速度にも影響しているかもしれません。またネイマールの場合、ガンソという彼と同等かそれ以上の才能を持ったもう一人の天才が側にいたことも彼の飛躍を後押ししていたことは間違いありません(そのガンソはネイマールより一足早くサントスを退団し、同じサンパウロ州のライバルクラブであるサンパウロFCで10番を着けています。彼は度重なる深刻なケガの影響や、クラシックかつ独特なプレースタイルのゆえ、ここ何年か代表から遠ざかっています。サントス復帰の噂もありますが、どうなるしょう。個人的には欧州に出て世界的に有名になってほしい選手です)。

そんなわけで、ネイマールとガブリエウでは周囲を取り巻く環境という点で多少差があることは間違いないですが、クラブの財政難や、黄金期直後の低迷期など、そうした現状をひっくり返すほどの活躍を期待したいところです。

それとこれは個人的な思い出ですが、2012〜2013年にサントスFCのスタッフをしていた際に、一度彼と一緒に仕事をしたことがあって、その時に知った彼の人柄の素朴さと誠実さが印象に残っていることもあり、余計に応援したくなるのです。ちなみに仕事の内容はサントスFCのクラブ公式チャンネルに載せる動画の制作で、撮影の合間にドラゴンボールの話題で盛り上がったり、彼に頼まれて日本語で名前を書いてあげたり(「ロッカーに飾りたいからお願い」って言われました)、まあそんなやり取りがあったのですが、その際に彼の謙虚で飾らない性格がよくよく伝わって、弱冠16歳で有名選手になった少年が大したもんだとやけに感心して、個人的に彼を応援し続けることを決めました。

彼に関して僕がもうひとつ驚かされていることと言えば、ここ数年での顔つきの変化です。プロ契約を結んだ頃、プロデビューを果たしたばかりの頃の、あのまだあどけなさの残る、ある意味垢抜けない感じのあった彼の顔つきは、僅か数年で信じられないほど大人びて精悍になり、男らしくなりました。何って上の写真、18歳の少年の顔つきには全く見えませんよね。今回僕がこの記事を通してお伝えしたかったことのひとつは、彼のこの顔つきです。18歳でこんな顔つき、表情を持った青年が存在するんだというその事実を、日本の皆さんにお伝えしたいと思ったのです。そしてわずか数年前の彼は、全く垢抜けない少年の顔をしていたということも。彼からは、生き方や、生の在り方や濃淡で人間の表情や顔つきが如何に変わっていくのかということを教えられたような気がしています。参考までに、彼の数年前の写真がこちらです。

改めて考えてみると、ネイマールも選手としてのキャリアが変化する中でどんどん顔つきが変わっていった選手の一人でした。やはり多くの人間の評価に晒されながら、精神的にも肉体的にも圧倒的なプレッシャーのかかる世界を生き抜いていく人間というのは、その生き方に相応しい顔つきを獲得していくのでしょう。生きている世界は違えど、この点は僕も大いに彼らに学びたいと思いますし、そういう生き方や変化を目の当たりにすることは大きな刺激になります。

以上、ブラジルの若きサッカー選手、ガブリエウ・バルボーザのお話でした。

最後の最後に、サッカー選手ガブリエウ・バルボーザの魅力と実力が伝わる動画を一本ご紹介して終わりにします。サッカーにあまり興味のない方も、是非ご覧になってみてください。