パウロ・コエーリョ

せっかくブラジル滞在中ですので、ブラジル人作家パウロ・コエーリョについて書きます。その名声や実績を考えるともはや「ブラジル人作家」というより「世界のパウロ・コエーリョ」と呼んだ方が良さそうですが、彼はブラジルのリオ・デ・ジャネイロ出身です。

彼をご存知ない方のため、簡単にその経歴を紹介しておくと、1947年生まれの67歳で、学生時代に学業を離れて世界各国を旅した後で作詞家になって活躍し、その後また世界各国を旅した後で作家になって更に大活躍し、今に至るという人物です。途中、ドラッグにハマったり黒魔術にハマったり、書いた歌詞の内容が時の権力者に睨まれて投獄されたり、とにかく様々な経験をしてきた人です。

作家としては自らの旅の経験を元に書いたデビュー作『星の巡礼』(1987)の売れ行きは今ひとつだったのですが、翌年、旅の経験をさらに抽象化して寓話に仕上げた『アルケミスト』(1988)がブラジルのみならず世界各国でベストセラーとなり、一躍世界的作家の仲間入りを果たしました。僕も御多分に洩れず『アルケミスト』が最初に読んだコエーリョ作品で、逆にデビュー作の『星の巡礼』はその後で何度か挑戦しようとしたのですが、結局読めませんでした。『星の巡礼』は彼自身の現実の人生の物語と、彼が自分の内面に耳を澄ませて新たに生み出そうとしていた物語とが良くも悪くも渾然一体となっている感じがして、それが僕にとっては読みづらさとなってしまいました。個人的にはこの作品は、その後に生まれる『アルケミスト』に向けたリハーサル、下書き、ブレインストーミングのような役割を果たした物語だったのでないかと思っています。

その『アルケミスト』なんですが、これはもうあのサン・テグジュペリの『星の王子さま』と並び称されるほどに示唆に富んだ作品として知られています。粗筋を簡単に書くと、羊飼いの少年サンチアゴが、ある夜見た夢に従って、海を越えた砂漠の向こうに眠る宝物を探す旅に出かける、という内容です。日本語でも「アルケミスト」「名言」等でネット検索すると、この本に散りばめられた知恵の言葉が次から次に出てきます。こんな風に書くと「じゃあ名言だけ見たらいいや」となってしまう方もおられるかもしれませんが、あくまで本に興味を持ってもらうための予告編的な意味で紹介しているつもりです。本の表紙は以下の通り。順に文庫版、25周年記念版、そして現在は絶版になった愛蔵版です。

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僕自身は初めて『アルケミスト』を読んだのは大学生になってからですが、それから今に至る約10年の間に、数年に一度の周期で再読しています。「運命を生きる」ということを、非常にリアリティのある物語を通して疑似体験させてくれる名著です。この物語を「しょせん寓話」と受け取るか「真実が書かれている」と受け取るかで、その人の世界観・人生観が問われるような一冊です。そして大抵は当人が受け取った通りの世界観に従った人生になると思います。

何かこうして書いているうちに、数年ぶりにめちゃくちゃ読みたくなりました。今手元に先日パラグアイで買ったスペイン語版があるので、読もうかしら(と同時に楽して日本語で読みたい、なんて怠けたことを考えています)。とはいえ今回のブラジル滞在でかなりポルトガル語の力も上がったはずなので、鳥取に帰ったら以前買っておいたポルトガル語版にも挑戦してみようと思います。現在日本語圏で読まれている山川訳は英訳からの重訳なので、一度は原語のニュアンスで是非味わってみたいのです。

さて、パウロ・コエーリョについてはまだまだ色々と書くことがありそうなので、頭が混乱する前にここで切ることにします。今回はブラジル滞在中ということで、彼の作品をまだ読んだことのない方向けに、「こんなブラジル人作家がいるよー」というご紹介のみにて失礼します。ご興味を持たれた方は是非『アルケミスト』を手に取ってみてください。あるいは書店や図書館の本棚を見て、他に興味を引く彼の作品があれば迷わずそれを読まれたらよいと思います。ちなみに僕がこれまで読んだ中では、『11分間』という作品が『アルケミスト』と並んで圧倒的にオススメです。以下、順に単行本、文庫版です。是非。

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