さて、今回も映画の紹介です。タイトルにもありますが、南米のチリの映画って観たことあるでしょうか?大多数の方は「NO」という返事になるかと思いますが、今回紹介するチリ映画のタイトルも『NO』です。
はじめにチリという国の位置を確認しておきますね。下の地図をご覧ください。南米大陸の南西に位置する、めっちゃ縦長の国です。
なかなか日本には馴染みのない国ですが、サッカーファンの方は今年のコパアメリカの開催国&優勝国としてご記憶かと思います。あとは日本と同じで津波が来る国ですね。何年か前に鉱山で閉じ込められた作業員の救出劇が世界中でニュースになったのもチリです。その節は作業員のストレス緩和のために日本から送られたプチプチ(あの指でプチプチするビニール)が役に立ったという一幕もありました。あとは作家のイサベル・アジェンデが有名ですね。彼女は1973年にクーデターで政権を追われたアジェンデ元大統領の姪っ子にあたります。僕は彼女の本では『天使の運命』という作品が好きです。
さて、映画に話を戻します。この『NO』という作品の予告編をどうぞ。
予告編で説明されている通りですが、粗筋は以下です。
1988年軍事独裁政権下のチリ。独裁に対する国際世論の批判を受けて政権の信任を問う国民投票が行われることになったが、反対派が国民に支持を訴えるチャンスは毎晩15分の放送枠を使ったテレビ宣伝のみ。事実上の出来レースの中で、反対派のキャンペーンを引っ張った広告マンの話。
予告編や粗筋を見てこの時代のチリの歴史的背景に興味を持った方は、是非この映画の公式サイトを見てみてください。「社会派エンターテインメント」と銘打っているだけあって、「社会派」でありながら映画としての「エンターテインメント」性も有している、見応えのある映画でした。当時の空気を伝えるため、敢えてビンテージカメラで撮影してみせたのは素晴らしい判断だと思います。実際、時代の空気感がリアリティを伴って違和感なく伝わってきます。
監督の名前はパブロ・ラライン。この『NO』は彼が独裁政権時代を扱った3部作の3作目にあたります。僕は1作目の『トニー・マネロ』は観ましたが、2作目の『検死』は観ていません。『トニー・マネロ』を観たのは学生の時でしたが、こちらも印象的な作品でした。
主演俳優のガエル・ガルシア・ベルナルはメキシコのトップスターの一人です。彼は今回のチリ人役だけでなく『モーターサイクル・ダイアリーズ』では若き日のチェ・ゲバラ(アルゼンチン人)を演じ、また『ザ・ウォーター・ウォー』(何でスペイン語映画をカタカナ英語に訳すんだ!)というボリビアの水問題を扱った作品にも主演しています。地元メキシコでも自ら映画制作会社を指揮して、国内巡回型のドキュメンタリー映画際を開催したりと、社会派俳優として圧倒的な活躍を見せています。メキシコ人としてのプライドから、敢えてハリウッドでなくメキシコを拠点に活動を続けているところも彼らしいです。
ラテンアメリカは社会問題の深刻さが露骨に顕在化しているためか、映画人のような文化人は社会派作品を多く作る傾向が強いように感じます。その分だけ重たい映画が多いですが、それらは多くの日本人の観客にとって「生き死にのリアリティ」を強烈に思い出させてくれる作品であるとも言えます。僕もラテンアメリカ映画を通じて「生きる」ということについて深く考えさせられることが多いです。
あまり話が長くなってもいけないので、今回はこのあたりで切り上げます。ラテンアメリカ映画については色々ご紹介したいので、今後も書きます。あ、チリ映画といえば『マチュカ』という作品も忘れられません。こちらは1973年のチリを舞台とした作品です。現代世界で9月11日と言えば誰もが思い出すのは2001年米国ニューヨークのあの事件ですが、チリ人にとっての9月11日はそれよりもっと以前から、別の意味で忘れるわけにいかない日なのです。
あ、また長くなった!以上です!映画『NO』、観てみてくださいね。