東大の意外と知られていない仕組みについて

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あるお母さんと大学教育について話していたら「入学のタイミングで専門を決めるんじゃなくて、入学後に色々学んでみてから専門を選べたらいいのに」というコメントがありました。そこで「東大がまさにそんな仕組みですよ」とお伝えしたところ、「えー!そうなの!知らなかった!」と大変驚かれました。

そうなんです。日本の大学に入学する場合、ほとんどの場合は入試の段階で「◯◯大学◎◎学部」もっと言えば「●●学科」とか「△△コース」まで決めてしまわなければいけないのですが、東京大学の場合そうではないのです。東大には昔から「進学振り分け制度」(今調べたら2015年度から「進学選択制度」に名称変更してました)という独特の仕組みがあって、冒頭のお母さんのコメントにあったような「入学時には専門を決めず、1〜2年の間に色々好きなことを学んでから専門に進めるようにする」という仕組みを、もう文字通りそのまま採用しているのです。何を隠そう、僕が自分の進学先として最終的に東大を選んだ大きな決め手のひとつも、実はこの進学振り分け制度、通称「進振り」でした。18歳の時点で自分の方向性を全く絞り切れていなかった僕にとって、この制度はとっても有難いものでした。

簡単にご説明すると、東大に入学するとまず全員が「教養学部」に所属します。よって入学する際の入り口はこの教養学部のみとなっているので、「東大の文学部を受ける」とか「東大工学部に入学する」みたいなことは、そもそも仕組みとしてあり得ません。

とはいえ全く専門を決めずに入るのかと言われればそうではなく、正確には「大まかな方向性だけ決めて入学する」ことになります。この「教養学部」(正式には「教養学部前期課程」と呼びます)は「文科」と「理科」の2種類の「科」に大きく分かれていて、入試の際にはこのどちらを選ぶかで試験の内容が変わってきます(いわゆる「文系」と「理系」だと思ってもらえばよいです)。で、この「文科」と「理科」のそれぞれが、もう少し細かい専門領域ごとに3つの「類」に更に枝分かれしており、合計6つの「科類」が存在することになります。現行の入学試験においては、この6つの科類の中から一つ選んで受けることになります(もっと正確に言えば東大を含む殆どの国公立大学には「前期入試」と「後期入試」というのがあって、今お伝えしているのは「前期入試」の方の仕組みです)。各科類の大まかな専門領域は以下の通りです。

【文科】

1類:法学

2類:経済学

3類:文学・教育学

【理科】

1類:理学・工学

2類:農学・薬学

3類:医学

上を見ていただいたら分かると思うのですが、文科1類、文科2類、理科3類の3つに関しては、それぞれ専門が一つしか書いてありません。つまり「文1→法学部」「文2→経済学部」「理3→医学部」に関しては、入学した時点でほぼ決まりです。たとえば法学部の話をすると、文科1類から法学部に進む場合、よほど酷い成績を取らない限りは単位さえ揃えていればそのまま進学できます。一方、他の科類から法学部に進むことも可能なのですが、この場合は文科1類から進学するのに比べて少しハードルが上がります。少ない受入枠に対して、複数の科類からの希望者で成績を競い合うことになるからです。また医学部医学科も、理科1類と理科2類から毎年ほんの少しだけ進学することができますが、その枠を勝ち取るには学業成績のスコアが相当高くないといけません。

まあ一部の例外を除けば、文科の人は文科系の学部、理科の人は理科系の学部に進学します。文科からだと、工学部都市計画学科や農学部農業経済コースなど、一部の理系学部には受入枠が用意されていますが、いわゆる「理系のど真ん中」みたいな専門に文科から進むことは原則的には難しいです。あと上には書いてませんが、「3年生以降もそのまま教養学部に残る」という選択もあります。正式には「教養学部後期課程」といいますが、簡単に言えば、他の9つの学部には分類し切れない様々な専門領域を扱っているのが教養学部後期課程です。

ちなみに「成績」という言葉を先ほどから何度か書いていますが、これは大学内での学業成績のことです。進学振り分け制度では、2年生の夏に3年生以降の所属学部が決まるのですが、それ以前の3つの学期(1年生の前期後期と2年生の前期)の学業成績(各科目100点満点)の平均点によって、選べる学部学科の選択肢が変わってきます。簡単に言えば「成績が良い人順に好きなところを選べる」ってことです。人気のある学部学科には競争が発生するのでそれ相応の点数が要求されますし、逆に全く人気のない学科には単位さえ取れていれば成績が悪くても入れます(「単位」というのは、ある科目に登録して受講した際に担当教官が『この人はちゃんとこの科目の内容を身に付けました』って最後にくれる証明みたいなもので、例えば100点満点の試験やレポートで半分とか6割以上の出来なら貰えるものだと思っていただければよいです。この単位という証明を一定数集めるのが進級や卒業の条件になるのです)。

但し逆に言えば、大学に入る前の時点で学びたい専門分野が完全に決まっている人にとっては、かえって面倒な仕組みと言えるかもしれません。実際、古代ローマが大好きで西洋史学科に入りたかったのに、点数が足りず日本史学科に進学した先輩もいました。こうやって書くとちょっと恐ろしい仕組みに感じられるかもしれませんが、まあ、きちんと授業に出てちゃんと試験勉強していれば、普通にそれなりの点数は取れる仕組みです(ちなみに僕は気に入った授業しかまともに出席せず、試験勉強についても同様の態度だったので、それに相応しい評価が成績表に並んでいました)。

まあ細かく仕組みを説明するとキリがないので、興味を持った方はご自身で色々調べてみてください。今は便利な時代ですから、Googleで例えば「東京大学 進学振り分け」と入力して検索していただければ、様々な塾・予備校や個人が詳しい説明をウェブ上に掲載しています(こういう時、大学の公式サイトは意外と分かりにくい)。ちなみにもっと詳しく知りたければ、東京大学新聞社が毎年発行している東大についてのムック本を読めばリアルな実情が掴めます。こちらの本です。


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さて、ここまで読んでこられて、この「進振り」という仕組みに興味を持ち、東大への進学を考えてみたくなった方もおられることと思います。でも同時に、「この仕組みには興味があるけど、東大は最難関だから自分には縁がない」とすぐに思い直してしまう方もおられることでしょう。そういう方に向けてお伝えしておきたいのですが、もし一瞬でも真剣に興味を持ったのであれば、すぐにその考えを否定せず、是非そのまま真剣に検討してみてください。

おそらく、この記事を読んで「進振り」について初めて知った方や、今まで「東大には縁がない」と思っていた方のほとんどは、東大の定員は何人なのかとか、入試の科目や問題はどんなものなのかとか、そういった具体的な情報についてはご存知ないことと思います。せっかくですので、是非まずはそういった情報について調べてみることをお勧めします。

これもあまり知られていないことですが、実は東大というのは、ある意味で日本のどの大学よりも受験の「対策が練りやすい」大学になっています(「対策が簡単」という意味ではありません)。というのも、やはり良きにつけ悪しきにつけ「目立つ」大学ですので、東大に特化した対策本やら過去問やら問題集やら受験体験談やらが、各予備校・出版社によって色々販売されているのです。まずは書店の受験コーナー等で、そうした本をパラパラとめくってみるだけでも色々なことがわかります。いきなり過去問や問題集を手に取るのはハードルが高いという人は、体験談を読んでみられたらいいです。もともと東大どころか受験や進学にも縁がないと思っていた人が一念発起して頑張って入学したとか、そんな実話も意外と少なくなかったりします。「誰でも行ける」とまで断言はしませんが、「適切な方法で適切な時間をかけて然るべき準備・対策を行えば、ある程度誰でも一定の確率で入学できる」のは間違いないと思います。それに、受験というのはスポーツの入団テストやモデルのオーディションなどと違って、生まれつきの運動神経やスタイル・容貌だとかに大きく左右される勝負でもありません。そういう意味でも、あえて繰り返しますが、「適切な方法で適切な時間をかけて然るべき準備・対策を行えば、ある程度誰でも一定の確率で結果が出る」勝負なのです。

ですので、これも繰り返しになりますが、この記事を読んで東大の仕組みを知って僅かでも興味を抱いた方は、ぜひご自身の手と足と目を使って調べてみてください。インターネットにも有用な情報があるので是非活用すべきと思いますが、個人的には書店に足を運んでみることを特にお勧めします。一方、絶対に避けてほしいのが「うわさ話」を元に判断してしまうことです。「同じ高校から受かった〇〇君」とか「知り合いの知り合いのところの〇〇ちゃん」とかの話は往往にして単なる「武勇伝」か「フェイクニュース」であることが多く、率直に行って、情報としての価値は高くありません。逆に実際に入学した本人から話を聞ける場合はアリですが、これも「こちらの立場になって適切なアドバイスをしてくれる人かどうか」を冷静に見極める必要があります。そういう人に出会えれば大いに頼ればいいですし、そうでない人ならいくら経験者でも相手にする必要はありません。とにかく大切なのは、自分の手、自分の足、自分の目で調べて、自分の心、自分の頭で判断することです。

最後にもう少しだけ話を広げると、「入学時に専門を特に決めなくてもいい仕組みの大学」は、必ずしも東大だけではありません。例えば日本国内にももうひとつ、国際基督教大学(通称「ICU」)という素晴らしい大学がありますし、国外に目を向ければ、特に北米では「入学後に専門を決める」というのは決して珍しいことではありません。実はこれは「リベラルアーツ」という理念に基づいて設計された仕組みなのですが、リベラルアーツの話までしてしまうといよいよ終わらなくなってしまうので、興味のある方は是非調べてみてください。

というわけで、この記事で言いたかったことを最後の最後にもう一度まとめます。

一、入学後に専門を選べる仕組みの大学は日本国内に存在する。

一、少なくとも東大とICU(国際基督教大学)は上記にあたる。

一、大学の名前だけで自分に縁がないと思うのは絶対にやめてほしい。

一、少しでも興味を持った方は具体的に調べた上で検討してみてほしい。

以上です。そういえば東大を直接テーマにしてブログ書いたの初めてですね。また何かお役に立てそうなこと・面白いことが思い浮かんだら書きます。

それではまた。

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