『速読英単語』の素晴らしさを伝えたい

『速読英単語』という語学参考書をご存知でしょうか?

通信教育大手のZ会が刊行している受験用の英単語テキストで、巷では「速単(そくたん)」と呼ばれています。「中学版」「入門編」「必修編」「上級編」の4冊に分かれており(さらに姉妹編の『速読英熟語』も含めると5冊)、受験参考書界では長きにわたり最も定評のある英単語帳の一つとして知られています。

一般に単語帳といえば、覚えるべき単語が辞書のように上から下に向かって並んでいるものだとか、あるいは単語1個に対して例文が1つ併記されているものだとかがよく売られています。具体的には以下のような感じです。いずれも英単語帳界のベストセラーで、広く使われている参考書です。

これらは文字通り「英単語を覚える」ことを目的として作られており、言うなれば「単語ありき」の単語帳です。まあそもそも英単語帳なのですから、当たり前といえば当たり前の話ですね。受験対策などがまさに典型ですが、短期間で一気に大量の単語を覚えてしまいたい時などは、このタイプの単語帳が大いに力を発揮します。また受験を目的としていなくても、レベルや状況によっては、ある程度の単語量を力技で覚えてしまった方がよいことがあります。そういう時にもこうした単語帳は有用です。

一方、今回ご紹介する「速単」は書名こそ「英単語」と名乗っているものの、上に述べたような一般的な単語帳とは根本的に異なるコンセプトで作られています。具体的に説明すると、「速単」では1冊あたり約50〜70程度のまとまった英文テキストがその日本語訳と共に見開きで収録されており、それらの文章を読みながら、そこに出てくる単語を文脈に沿って覚えていくという形式になっているのです。例えばこんな感じです。(画像は上級編)

ご覧のように、最初にご紹介した単語帳とはかなり様子が異なります。とはいえ文章しか載っていないのかというとそうではなく、この「英文&対訳」の次のページに移ると、文章中の赤字の単語を中心とした「単語帳」のページが現れて、そこで改めて各単語をチェックしていく形式になっています。こんな感じです。

つまり最初に紹介した「単語ありき」の単語帳に対して、この「速単」シリーズは「文章ありき」の単語帳だと言えます。単語自体を次から次に覚えていくのでなく、様々な文章を読みながら自然に単語を覚えていくことを目指した参考書なのです。実に素晴らしいコンセプトです。

以下、何がどう素晴らしいのかを5つのポイントに分けて説明します。


1. 多聴多読型のテキストである

まず何より素晴らしいのは、多聴多読型のテキストであることです。我々が自分の母語を身につけたプロセスを考えても分かるように、言語の習得には、まずその言語のシャワーを大量に浴びるということが不可欠です。それがすなわち「多聴多読(たくさん聴いて、たくさん読む)」ということなのですが、「速単」は言語習得におけるこの当たり前の原則に沿って作られています(別売ですがCDも出ているので多聴も可)。同じ英単語帳でも、覚えるべき単語とその例文だけに触れるのと異なり、既に理解できる文や単語も含めた大量の英文を浴びることができます。これが重要です。


2. 文脈の中で単語を覚えられる

同じく素晴らしいのが、文章ありきの単語帳であるため、文脈の中で自然に単語を覚えられることです。流れの中で単語に出会える、という言い方でも良いでしょう。こちらも母語の習得プロセスを思い返せば分かることですが、僕たちは自分の母語を身につけるにあたって、あくまで実際の会話や書かれた文章に触れる中で未知の単語や表現と出会い、それらを少しずつ自分の語彙の中に加えてきたはずです。「速単」では、まさにそのようにして英単語と出会い、その実際の使われ方とセットで理解・記憶していくことができます。


3. 英語を学ぶのでなく英語で学べる

英語を学ぶ上で非常に重要なのが、なるべく早く「英語学ぶ」から「英語学ぶ」へと移行することです。ここでいう「英語を学ぶ」というのは、「文法を学ぶ」「単語を覚える」「リスニングの練習をする」など、英語を身につけること自体を目的とした一般的な勉強のことです。一方「英語で学ぶ」というのは、英語に限定されない様々な知識や情報を英語で取り入れていくことを意味します。例えば心理学について書かれた文章を英語で読めば、それは「心理学を英語で学ぶ」ことになります。これがなぜ重要なのかは、「そもそも何のために英語を学ぶのか」を考えてみれば詳しく説明する必要もないでしょう。要は英語で不自由なく色々できるようになるために英語を学ぶのですから、そのためにはとにかく英語で様々な素材に触れるに越したことはないのです。

「速単」というのはこの点でも非常に優れていて、様々なジャンルの興味深いトピックの英文が、英語学習者にはちょうど良い長さでたくさん収められています。こんな感じです。(順に入門編、上級編)

雑誌記事やコラムくらいの長さの様々な文章を読むことになるので、英語の知識に限らず様々なことを学べる仕組みになっています。つまり、英語で幅広く教養を身につけていくことに適した参考書なのです。


4. 下手に洋書を読むより効率的である

実は英語に触れるという意味では、こうした参考書に頼らずとも絵本を含めた洋書をどんどん読んでいくのが実は一番手っ取り早く、かつ最も「生きた英語」に触れられるのですが、学習者にとってひとつネックになるのが効率の問題で、その一つが辞書を引く手間です。当然ながら洋書には単語の意味なんていちいち書いてありませんので、自分で辞書を引きながら読む必要があります。その点「速単」は文章中心といえど英単語帳なので、各文章の重要単語は太字や赤字になっている上、文章ごとの重要単語が類語や使い方と共に丁寧にまとめてあります。というかそれ以前に、どの文章にも見開きで確認できる形で対訳がついています。しかも(別売ですが)CDもあります。ですので、ある意味で洋書に取り組むよりも効率よく英語の読書を進めていくことができます。

「速単」を経て洋書に進む、あるいは「速単」と並行して洋書にも挑戦する、という使い方が個人的にはオススメです。


5. 受験のその先まで役に立つ

これは特に中高生や受験生に伝えたいポイントになるのですが、「速単」のある意味で最も素晴らしい点がこれです。上の1〜4を改めて確認していただいても分かる通り、ここまで僕は「速単」という有名な受験参考書について解説していながら、受験英語や入試対策については文字通り一言も触れていません。これは僕が「速単」を単なる受験参考書でなく、英語の習得を目指すあらゆる人にオススメできる優れたテキストだと確信しているからです。逆に言えば受験のために「速単」を使用する皆さんには、ぜひ受験のその先、つまり実際のコミュニケーションや読書といった場面で英語を使いこなせるようになることを目指して、この優れたテキストを活用していただきたいと思っています。そういう意識で意欲的に学んでいれば、テストの成績も自然と後からついてきます。


以上、「速単」シリーズのコンセプトとその素晴らしさについてご紹介しました。細かく語ろうとすればまだまだ色々あるのですが、おそらく止まらなくなるので今回はここまでにしておきます。

この記事を通して初めて「速単」の存在を知った皆さん、あるいは元々何となく知っていたけれどその価値には気付いていなかった皆さんは、騙されたと思って是非。Z会の書籍を扱っている書店の受験コーナーに行けばたいてい全シリーズ揃っているので、実際に中身を見て自分に合ったレベルのものを見つけてみてください。その際は「まあ大体読めるけど太字や赤字の単語はちょっと分からん」くらいのものを選べば丁度いいです。

ちなみに僕は現在、国内外で活躍するプロサッカー選手を中心に語学を教える仕事をしていますが(詳しくはこちら)、その中には「速単」にハマってどんどん英語力(特に聴解力と語彙力、あとはもちろん読解力)を伸ばしている日本代表選手もいます。その選手は中学版から始めて入門編も終え、現在は必修編に取り組んでいます。実はサッカー選手の場合、求められる英語力の種類を考えると必ずしも「速単」ばかりやらなくても良いのですが、彼の場合は「速単」で一つ一つレベルを上げていくのが半ば趣味のようになっていて、実際とても楽しそうにやっています。それこそサッカー選手のキャリア自体には決して必須ではないものの、このまま上級編までやり切るそうです。凄まじい意欲と向上心です。受験生の皆さん(そしてあらゆる英語学習者の皆さん)も、ぜひ負けずに頑張っていただきたいと思います。僕も頑張ります。

というわけで、最後に改めてまとめます。


  • 『速読英単語』シリーズが素晴らしい
  • 一般的な単語帳は「単語ありき」の構成
  • 「速単」シリーズは「文章ありき」の構成
  • より自然な形で英単語と出会い覚えていける

「速単」の素晴らしさを5点でまとめると

  1. 多調多読型のテキストであること
  2. 単語を文脈の中で覚えられること
  3. 単に英語を学ぶのでなく英語で学べること
  4. 洋書への橋渡しとして有用であること
  5. 受験参考書ながら受験の先まで役立つこと

以上、今回は英単語テキスト界の傑作『速読英単語』シリーズの素晴らしさについてご紹介しました。皆さんもぜひ、一緒に「速単」やりましょう!


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