ポルトガル語は世界一難しい?

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ブラジル人と語学の話になった際に、必ずと言ってよいほど彼らが口にするフレーズがあります。それは「ポルトガル語は世界で一番難しい言語だ」というものです。ポルトガル語は文法も表現も複雑でどの言語よりも習得が大変だ、というのが多くのブラジル人の共通認識のようで、異論を挟む余地がないような勢いで断定的にそう言ってくる人が実際に沢山います。もう何度この台詞を聞いたことか、という感じです。

こんなことを書くと、ポルトガル語の習得に関心を持っておられる本ブログの読者には実に恐ろしい話かもしれません。でもどうか落ち着いてください。実際にポルトガル語を何年か学習して、結果ある程度習得した僕の素直な実感としては、「別に一番ってこたねえだろう」というのが正直な感想です。

もちろん「簡単」とは言いません。特に日本人にとって、ということで言えば、決して習得難易度において最も簡単な部類の言語だとは僕も思っていません。例えばポルトガル語はロマンス系という言語グループに属しており、スペイン語・イタリア語・フランス語などがこれと同じグループにあたるのですが、仮にこの中で日本人にとって学びやすいものはどれかと聞かれたら、僕は迷わずスペイン語と答えます。というのもスペイン語の場合、殆どの発音が素直なローマ字読みで日本人にはもっともハードルが低く、ある意味で英語よりもスムーズに習得できる可能性すらあるからです。そういう意味ではイタリア語もスペイン語に近いところがあります。一方それに比べるとポルトガル語は、基本的な文法構造はスペイン語と殆ど同じではあるものの、発音や読み方の点で日本語の感覚と異なるもの、日本語には存在しないものがそれなりに出てきたりして、日本人が学ぶ上では少しハードルが上がります。その点では、同じ言語グループ内で比べてみても、確かにポルトガル語の習得は難しいと言えるかもしれません。

しかしながら、同じロマンス系言語の中でもフランス語と比べた時には、必ずしもポルトガル語の方が難しいとは僕は感じていません。基本的な文法構造はよく似ているのでそこは置いておくとしても、発音や綴りについてはフランス語もなかなか複雑です。この点については僕の個人的な感覚では(フランス語は未習得という事実を差し引いても)ポルトガル語のそれよりも難しいという印象です。

ちなみに僕は「英語→スペイン語→ポルトガル語」という順にこれまで習得してきているのですが、結果的に効率的な順番だったと感じています。別に意図してこの順番で学んだわけではなく、人生上の成り行きで自然にこうなっただけなのですが、振り返ってみて思うのは、日本人が最初に習得する欧州系言語としては「英語&スペイン語」というのはベストな組み合わせの一つだということです。で、この2言語を習得すると、今度は「イタリア語 or ポルトガル語」の習得が簡単になります。で、この中でもポルトガル語の方を選ぶと、その後でフランス語を学ぶのが(特に発音・聴き取りにおいて)相当スムーズになります。

閑話休題。改めて「ポルトガル語は世界一難しいのか?」という元の問いに戻りますが、やはり僕の結論としては「世界一は言い過ぎ」です。特に「ローマ字読み」の文化、つまり母音と子音を1対1対応させながら発音する言語構造を強固に持つ日本語の世界で生きる我々には、そこまで習得の難しい言語だとは思いません。特に前述したように、より日本人にとって発音しやすいスペイン語を間に挟むと、一気に習得が容易になります。

それに、ここまではあくまで欧州系言語の中でのポルトガル語について話してきましたが、例えばアラビア語やヒンディー語、あるいは中国語やタイ語などと比べてみた時にどうか、みたいなことまで考えると、やはり「世界一難しい言語」だと言い切るのは難しいかな、と思います。例えば漢字文化圏の外で、ABCのアルファベットを使う言語で生活している人々にとっては、中国語や日本語の方がポルトガル語より遥かに習得困難ということになるでしょう。逆に日本語話者にとっても、文字そのものを覚えることから始めなければいけない言語に比べれば、慣れ親しんでいるABCがベースになっているポルトガル語の方が簡単ということは言えると思います。

そもそも冷静に考えてみれば、ポルトガル語圏の代表的な国の一つであるブラジルというのは移民大国です。世界中の色んな国から移民がやって来て、ポルトガル語を話しながら生活しています。「完璧にマスターする」と考えると確かに非常に難しいのは事実ですが、それは何もポルトガル語に限った話ではありません。少なくとも生活レベルに関しては、必要に迫られれば大抵は何とかなるし、何とかするものです。

身も蓋もないことを言えば、結局は母語との相性だったり学習者の感覚との相性だったり、あるいは学習意欲の高さだったり、そういう部分で「難しさ」の感じ方そのものにも個人差が出るものなのです。ですので、少なくとも学習者という立場で「難しさ」について考える時は、あまり一般論に囚われず、自分自身がその言語を学ぼうとする上での「なぜ」「何のために」と向き合うことの方がはるかに本質的で生産的です。

ところで真実かどうかは別として、現実に多くのブラジル人が「ポルトガル語は世界一難しい」と考えているという事実は、ポルトガル語学習者の我々にとっては悪くない状況かもしれません。なぜなら、我々が頑張ってポルトガル語を身につけて彼らと話せるようになれば、「世界一難しいポルトガル語を身につけた外国人」として尊敬の気持ちを持ってもらえる可能性が高い、より「認めてもらえる」可能性が高い、ということになるからです。異文化・異言語の世界に飛び込む時、我々のスタート地点はどう頑張ったって「よそ者」です。そこから「一員」になっていくためには、やはり何らかの努力や働きかけは必要なわけで、その最も単純で確実な方法の一つが、言語の習得です。でもその時に「こんな簡単な言語なんだから習得できて当たり前だろ」と思われているのと、「こんな難しい言語をよく習得したな!」と思われるのでは全然違います。そしてブラジルの場合、間違いなく後者の反応になります。

最後に。ポルトガル語の習得に興味を持った方で「難しい」との噂に尻込みしかけている方がいらしたら、「ポルトガル語の難しさ」について考えてしまう気持ちも分かるのですが、「ブラジルという国の人間の在り方の豊かさ、文化の豊かさ」についても調べたり考えたりしてみてください。僕はブラジルという国と本格的に関わるようになって、同時にポルトガル語という言語にしっかり触れるようになって5年以上の歳月が経ちましたが、この人生の選択に対して、魂の底から「よかった」と思っています。ポルトガル語という「英語やスペイン語に比べればマイナーな言語」ですが、ブラジルという国、ブラジル人という人々と深く関わるようになったことで得られた人生の豊かさ、人間観の深まり、何より親しい友人であり家族である彼ら彼女らとの関係性の尊さを考えると、今となってはポルトガル語のない人生は考えられません。それくらい、この世界は豊かです。特にブラジルと地理的にも文化的にも在り方的にも真反対と言える日本という環境で生まれ育った日本人なら、一度は深く出会ってみるべき世界だと確信しています。そしてその世界へのアクセスを可能にする言語がポルトガル語であることを考えれば、万が一「世界一難しい」言語だったとしてもやってみる価値はあります。ポルトガル語で言えば「Vale a pena(ヴァレ・ア・ペナ)」(やってみる価値がある)です。

というわけで、一人でも多くの日本人がポルトガル語を習得して「ブラジル」と出会い、「日本」と「ブラジル」が絶妙に混ざり合った豊かな人生観を獲得されることを願いつつ、僕もまだまだポルトガル語の上達に向けて頑張ります。

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