初学者のためのポルトガル語学習方法について、【後編】です。【前編】では新たに語学学習に取り組む上での考え方や、言語の周辺知識にあたる文化的情報を取り入れることの大切さについて説明しましたが、今回はそれらを前提とした上で、具体的な学習についてのアドバイスを送りたいと思います。但し、ポルトガル語教室に通ったり家庭教師を付けたりといった「正式に誰かに教わる」という選択肢については予め除外します。今回お伝えするのは、とりあえず一人きりで行動を起こす必要のある人のためのアドバイスです。
1:思い切ってブラジル人コミュニティと繋がる
群馬県、愛知県、静岡県あるいは島根県出雲市をはじめ、多数のブラジル人が暮らしている街に住んでいる方は、思い切って直接ブラジル人コミュニティに飛び込むのが一番です。あるいは大都市にも多くのブラジル人が集まる場所というのが存在します。いきなり教室に通ったり家庭教師に習ったりしなくても、とりあえず身近な「ブラジル」の中に直接飛び込んでしまえばいいのです。イベントを通じてでも、何でもないきっかけを通じてでも構いません。方法はとっても簡単で、例えばブラジル人が集まるお店に行って、仲良くなれそうな人を見つけたら適当なタイミングで話しかける、たったこれだけです。そのタイミングというのも、例えば「目が合う」とかそんなんでOKです。目が合った瞬間に挨拶したり会釈して話しかける、たったこれだけでいいのです(※「女性→男性」の場合は余計な「勘違い」を誘発する恐れがあるので要注意)。ブラジル人の多くは知らない人と会話することに慣れていて特に抵抗を感じないので、この「ファーストコンタクト」が成立するかどうかというのは、殆どの場合「こちら側」つまり日本人側の態度の問題です。残念ながら日本人というのはこのあたりのコミュニケーションが極めて苦手な人間が圧倒的に多いのが現状で、それゆえブラジル人の多くは日本人に対して「閉鎖的」もっと言えば「冷たい」といったイメージを抱きがちです。だからこそ、そのイメージの逆の態度で接すれば、多くのブラジル人に大変喜ばれるわけです。まあ、騙されたと思って行動してみてください。
ちなみにこの方法をとるには多少の勇気、行動力等が要求されますが、それ以前に必要とされるのが「信頼できる人」すなわち「ちゃんと友人になれる人」を直感的に見抜く能力、つまり「人を見る目」です。まあこれは何も外国人相手に限ったことではなく、日本人同士でも大切なことですね。一緒にいることで互いの人生が豊かになるような関係、何かあれば遠慮せず相談し互いに助け合える関係、それが真の友情の姿です。そういう意味ではブラジル人というのは一般に情に厚く愛情深い人間が多く、こちらが心を開いて付き合えば、あまり日本人同士では成立しない類の深く豊かな関係を分かち合える友人と出会える可能性は低くないです。それは語学習得以上に遥かに大切なことですし、ある意味そうした豊かな関係性に恵まれた人生を送るためのツールとして語学というものがあるのだと言えます。そういう友情に恵まれれば語学習得の意欲は自然と高まりますし、直接ネイティブ話者と接することで語学力そのものも自然と鍛えられていくでしょう。是非是非、勇気を持って行動し、飛び込んでみてください。
2:SNSを活用する
身近にブラジル人コミュニティが存在しない環境で暮らしている人も、「ブラジル人コミュニティ」を諦める必要はありません。それはインターネット上にも確かに存在しています。すなわちSNSです。【前編】でもインターネットの活用法については述べましたが、主に「ブラジルについての情報」にアクセスする方法としての紹介でした。今回お伝えするのは、「ブラジルについて」ではなく「ブラジルそのもの」=「ポルトガル語の世界」にインターネットを通じて飛び込んでいくアプローチです。
一口にSNSと言っても色々ありますが、中でも語学初心者にオススメなのがInstagramで、このアプリはブラジルでも大人気です(そもそもInstagram創設者の一人がブラジル出身)。オススメする理由は単純で、写真とシンプルな文章という組み合わせが語学初心者に最適だからです。これがTwitterだとどうしても文章が中心になってしまいますし、Facebookもやはり多少文章が多めになります。一方Instagramの場合、前述したようにメインは写真で、その写真を補足する「キャプション」の形で文章を載せるというのが一般的な使い方になります。ですので、写真を通じて日常的にブラジルやブラジル人の空気・雰囲気を感じながら、少しずつポルトガル語にも慣れていくという、ある意味理想的な関わり方でポルトガル語の世界に入っていけるのです。特に「日常的に目にする・接する」というのがポイントです。
また、書かれているポルトガル語の意味を知りたい場合、とりあえず文章をコピーしてGoogle翻訳にかければ、ある程度の内容は理解できます。最初はそんな感じの「勉強」でも全く構わないのです。なかなか毎日集中して机に向かうというのも簡単ではないので、まずは多くの人が日常的に使用しているスマホを使って、気軽かつ気楽にポルトガル語に接していけばいいのです。
というわけで参考までに、ブラジル代表サッカー選手ネイマールに関係したInstagramアカウントを3つご紹介しておくので、よかったらフォローしてみて下さい。
ネイマールは友達が多く、彼のアカウントにはブラジルの有名人が多数登場するので、その都度チェックしていくとブラジル人のアカウントを色々フォローできます。
あ、ちなみに僕もInstagramにはポルトガル語のキャプションを付けているので、興味のある方はこちらをチェックしてみて下さい。また僕のフォロワーやフォローしている人達の中にもブラジル人が多数含まれていますので、その中で面白そうなアカウントを見つけた人は、一緒にフォローしてみると面白いかもしれません。
というわけで、Instagramを中心に、是非SNSを積極的に活用してポルトガル語世界との距離を縮めて下さい。繰り返しますが、何事も「慣れ」が肝心です。是非。
3:参考書を使って独習する
【前編】から「学習準備」あるいは「環境作り」的な側面からのアプローチばかりお伝えしてきましたが、いよいよ本格的な「学習」っぽい内容についてのアドバイスをお届けします。すなわち、市販のテキストによる独学独習の方法です。
逆に言えば、いきなりテキストを買って机に向かう前に、実はこれだけ沢山の「まず他にやるべきこと」が存在しているということを、ご理解いただけたかと思います。学習観や学習イメージの準備、文化的情報を通じて外堀を埋める作業、そして直接行動して「ブラジル」に飛び込む試みや、SNSを通じて気軽に「ブラジル」に触れるアプローチなど、色々とやれることがあるのです。こうした段階を経て、いよいよテキストを開いたり机に向かう段階がやって来ます。
というわけで、ここではいよいよ本ブログでオススメの学習書をご紹介します。ポルトガル語のテキストというのは、他のもっと「メジャー」な言語に比べれば全体の出版点数は決して多くありませんが、それでも優れたテキストは少なからず存在します。単語・文法・読解・リスニング・会話など、項目ごとに良書があるのでご心配には及びません。その中でも今回は、初心者・初学者がポルトガル語に取り組む上で、「最初の1冊」としてオススメの学習書を文字通り1冊だけご紹介することにします。こちらの本です。
その名も『ブラジル・ポルトガル語文法 実況中継』。
「実況中継」と言えば、語学春秋社発行の受験参考書に「実況中継」というシリーズがあります。有名予備校講師の講義をそのまま活字にして書籍にしたスタイルの参考書シリーズで、読書しながら自分のペースで授業を受けられるという、画期的なスタイルの参考書です。現在ではこの「実況中継シリーズ」に限らず、「講義をそのまま活字にした」形式の参考書は色々と出版されていますが、その波は何と受験業界を超えて、ポルトガル語学習界にも及んでいたのです。タイトルもまさにそのまま「実況中継」で、スタイルも同様です。
現役ポルトガル語講師でブラジル在住経験を持つ著者が、余談や雑談も適宜交えながらユーモアたっぷりに語る講義がそのまま書籍化した形をとっています。よって、前述したように「教室で講義を聴いているような感覚」で楽しみながら読み進めていくことができます。 実はこの「実況中継」形式のテキストが英語以外の言語で出版されている例というのは非常に珍しく、この点でポルトガル学習者は非常にラッキーです。
具体的内容としては、ポルトガル語の基礎文法を学ぶのが主目的の参考書です。主要な文法事項が48項目に分けられて、各項目5ページくらいでまとめられています。分量的に多過ぎず、初学者向けのテキストとしてもちょうど良いサイズです。
語学学習において、やはり文法というのは非常に大切です。とはいえ「いきなり文法から入る」というのは多くの学習者にとってハードルが高いのも事実です。かくいう僕自身も新たに外国語を学習する場合、いきなり文法ばかりをゴリゴリやるような方法は採りません。というか、頭も心も追いつかなくてできません。ですので、文法の学習というのはタイミングと教材選びがかなり重要になってきます。
その点、今回ご紹介しているテキストは、初学者がポルトガルの基礎的な文法の仕組みを「ひとまず全体的に理解する」上で最適な一冊と言えます。講義形式で説明されているので、とりあえず「へー」「なるほど」「そうなのね」みたいな感覚で読み進めていけばよいのです。その際に、無理してすぐに覚えようとか使いこなそうとか考えないのがポイントです。初学者がいきなり文法事項を網羅的に覚えるというのは明らかに無理があることですので、「記憶」「習得」のことは考えず、とにかくまずは「理解」に徹してください。文法に関して言えば、最初の段階ではそれだけで十分です。文法というのは最終的には、使いながらだんだんと習得していくものだと考えてください。
というわけでポルトガル語初学者の皆さんには、まずはこの1冊を楽しみながら丁寧に読み進めてみることをオススメします。
4:辞書を買う
最後に、ポルトガル語初学者に必要な行動の中でも最も重要かつ基本的なことをお伝えします。すなわち辞書を買うことです。辞書と仲良くなることは、語学学習者として必須の条件です。これは絶対に譲れません。「ポルトガル語→日本語」で辞書を引く場合、特に動詞を調べる際にちょっとした文法の知識が必要になりますので、いきなり初学者が自在に辞書を使いこなせるわけではありません。しかしながら、辞書を手元に置くことは、外国語学習者の「本気」の証、学習意欲・学習態度の表明としても大切なことだと僕は考えています。ウェブ検索でも辞書的な役割はある程度果たせますが、そこにはどうしても限界があります。少なくともポルトガル語で直接引けるようになるくらいまでは、辞書に頼るべきです。
その辞書の形にもいわゆる「紙」「電子辞書」「アプリ」の3種類がありますが、これに関してはどれでなければいけない、というのは特にないです。紙だと周辺に載っている他の単語まで目に飛び込んでくるため、ランダムにより多くの情報を得られる確率が上がるというのがメリットです。電子辞書やアプリの場合、やはり持ち運びの手軽さと調べる時の手軽さがメリットです。全部入手して適宜使い分ける、というのもアリです。というわけで、順に紹介します。
A:紙の辞書
この白水社の辞書が、日本における本格的かつ網羅的なポルトガル語辞典(ポルトガル語→日本語)として最も定評のあるものです。僕もこの辞書のお世話になっています。
こちらの小学館の辞書もオススメです。語彙数は白水社版の方が多いですが、用例の豊富さやレイアウトでこちらを気にいる方もいると思います。
とりあえずこの2冊のどちらかを選んで使えば全く問題なく学習を進められます。実際に書店で手に取って比べてみるのもオススメです。ある程度は好みで決めてしまえばよいと思います。
最後に「日本語→ポルトガル語」の辞書も1冊紹介しておきます。コンパクトなサイズながら、語彙も用例も特に問題を感じない程度にしっかり揃っているのでオススメです。サイズと内容との総合的なバランスで魅力的な辞書です。
以上、紙の辞書のご紹介でした。
B:電子辞書
電子辞書というのは、やはり非常に便利な品物です。後に紹介するアプリも悪くないのですが、やはりスマホというのは他にも様々な用途で使う以上、電池の消耗や充電切れというリスクはある程度付きまといます。また、辞書だけ使うつもりがついつい他のアプリを起動してしまったりして、学習にうまく集中し切れない方もいるかもしれません。その点、電子辞書というのは乾電池で動く純粋な学習ツールですから、日常的に電池切れを気にすることもなく、気持ちも完全に学習モードで使用できます。
また最近の電子辞書は、単に辞書であるだけでなくサブコンテンツが非常に充実しています。世の中がウェブやクラウドの発展で騒がしくしている昨今も静かに独自の進化を続けており、教養を身につけるコンパクトデバイスとして非常に優れたツールとなっています。
というわけで、オススメの電子辞書をご紹介します。こちらです。
カシオ 電子辞書 エクスワード スペイン・ポルトガル語モデル XD-G7500 コンテンツ100
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電子辞書のクラシック、カシオの「エクスワード」シリーズです。外国語学習のための電子辞書とくれば、やはりこれに優るものはないでしょう。今回ご紹介しているモデルは「スペイン語・ポルトガル語モデル」というもので、実はポルトガル語だけでなく、スペイン語の辞書も同時収録されています。このモデルの存在は実は僕も今初めて知ったのですが(僕はポルトガル語モデルとスペイン語モデルの2台持ち)、このハイブリッド版の登場は革命的です。というのもポルトガル語とスペイン語は互いに非常に似通っているため、いったん片方を習得するともう一方の習得はかなり容易になるのです。それに、ポルトガル語圏がしっくりくるような人は大抵スペイン語圏がしっくりきますし、逆もまた同様です。ですので、この2言語に関しては、どうせなら両方マスターしてしまった方がいいのです。おそらくカシオさんはそういった学習者のニーズと傾向を正確に把握してくださったのでしょう。僕はカシオの回し者でも何でもありませんが、このモデルの発売にはスタンディングオベーションです。
ですので、ポルトガル語初学者の皆さんも、電子辞書を買うなら騙されたと思ってこの「スペイン語・ポルトガル語モデル」のご購入を検討してみてください。いったんポルトガル語を習得できたら、確実にスペイン語もやりたくなります。これは体験してみれば分かることですので、信じてください。
またこの電子辞書は、「ポルトガル語→日本語」「日本語→ポルトガル語」のみならず、「ポルトガル語→英語」「英語→ポルトガル語」の辞書の他、初学者のための学習テキストがまるまる1冊と、旅行等で役立つフレーズブックまで揃っています。ちなみに「ポルトガル語→日本語」の辞書は、上に紹介した白水社の『現代ポルトガル語辞典』が収録されています。もちろんスペイン語コンテンツも豊富で、英語の辞書等もしっかり入っています。そして前述したように、語学辞書以外のサブコンテンツも充実しています。詳しくはこちらのカシオ公式サイトでご確認ください。
C:辞書アプリ
最後にご紹介するのはスマホ向けの辞書アプリです。上記リンクのものですが、実はこれもカシオの電子辞書と同じく、内容的には白水社の『現代ポルトガル語辞典』がそのままアプリ化したものです。こちらのアプリのメリットとしては、スマホやタブレットの電子書籍アプリを起動して文章を読みながら、同じ画面中で辞書アプリを開いて意味を調べることができるなど、アプリならではの機能が付いていることです。特にタブレットで使うとなかなか便利かもしれませんね。また上で電子辞書について説明した際に、「乾電池式の電子辞書はスマホと違って充電切れの心配をしなくて済む」旨を述べましたが、それでもやはり、スマホに辞書も収録されることで持ち運ぶデバイスが一つで済むことのメリットも小さくありません。
この辺りは個人の好みや価値観、使い方で評価が分かれるところですので、それぞれ自分の感覚や学習スタイル等に合う形で選択すればよいと思います。
以上、3種類の辞書についての説明でした。最終的にはどれを選んでもいいので、ともかく手元にひとつ、本格的なポルトガル語辞書をご用意ください。そして事あるごとに辞書を開き、用例・例文もチェックし、とことん辞書と仲良くなってみてください。
まとめ
というわけで今回も大変長くなりましたが、ポルトガル語初心者にオススメの学習方法【後編】は以上です。最後にもう一度、各項目をまとめておきます。
- 環境的に可能な人はブラジル人コミュニティに飛び込んでみる
- Instagram等のSNSでポルトガル語圏のアカウントをフォローする
- 『ブラジル・ポルトガル語文法実況中継』を楽しく読んで一通りの文法を理解する
- 紙でも電子辞書でもアプリでもいいので、本格的な辞書をひとつ手元に用意して使う
以上4つの取り組みを、互いにバラバラに独立した営みと考えず、むしろ相互作用的に同時にやっていけると学習効率は高まります。
今回は4つに絞って「初心者ができること・やるべきこと」を紹介してきましたが、もちろん他にも色々あります。ポルトガル語学習に関する記事は今後も書いていきますので、ご興味のある方は引き続きチェックしてみてやってください。
それでは、楽しいポルトガル語の旅を。
Boa viagem!!
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