メキシコは「中南米」じゃない

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メキシコが「中南米」の一国として数えられる場面をよく目にします。「米大陸のスペイン語圏=中南米」という認識が一般的に共有されているためだと思いますが、実はこれ間違いです。

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上の地図を見ていただければ分かる通り、実はメキシコは地理的には北米に位置しています。現に「北米自由貿易協定(NAFTA)」の加盟国はカナダ・USA・メキシコの3カ国です。もっと言えば、2026年のサッカーW杯はこの3カ国で共同開催することが決定しています。

「だから何だ」と言われればそれまでですが、この事実を通して伝えたいことがあるのです。それは一言で言えば「皆さんもう少しメキシコを身近に感じてほしい」ということです。

まず「カナダ&USA」の2カ国を何となく「セット」みたいに捉える感覚って、大半の日本人の間で一般的に共有されている感覚だと思います。同じ英語圏ですし、日本人の多くが憧れる「欧米」を構成する国々ですから、ある意味で自然なことです。実際「北米に留学」と聞いてメキシコを思い浮かべる人はまずいないでしょう。

一方「メキシコ・グアテマラ・コスタリカ・・・」といった国々を同じく「セット」みたいに捉える感覚も、同様に広く日本で共有されている感覚だと言えるでしょう。これらは前述の「欧米」と比べると「よう分からん国」、つまり多くの日本人にとって殆ど馴染みのない国のグループですね。

メディアに登場する回数だとか登場の仕方だとか、あるいは旅行先としての人気だとか、様々な理由で「親しみを感じる国」と「馴染みのない国」の差が生まれることは重々理解しています。率直に言って、「欧米」と「それ以外」の2種類で分けてしまっているような人も多数いるのが日本における海外認識の現状でしょう。つまり「中南米」だけでなく「イスラム圏」も「アフリカ」も、下手すると少なくない数の「アジア」の国々すらも「ようわからん地域」の方に含めてしまっているのが、日本人の一般的な感覚でないかと思います。

そんな「当たり前」に対して、ここでは少なくとも一つ、突破口を提示します。

それが「メキシコは北米」という視点です。つまり「メキシコ・カナダ・USA」の3カ国でひとつの「セット」として捉える視点です。

視点というのは重要なもので、これが僅かに変化するだけで、世界の見え方や認識の仕方、つまり世界観に変化が生じることがあります。そして世界観に変化が生じると、ものの考え方にも変化が発生します。これはとても大事なことです。

例えばトランプ現米国大統領の就任以降、国境の壁の建設をはじめ「メキシコ」という単語がニュースに登場する機会が増えているのでないかと思いますが、こうしたニュースを視る際にも、メキシコを「中南米(正しくはラテンアメリカ)」の一国として理解する視点と、今回述べているような「北米の一国」として理解する視点の両方を持つことで、より深く理解・考察することができます。

また、メキシコを北米に含まない感覚の中には「カナダ&USA=英語圏」という前提があるものと思いますが、最近はこの前提そのものも部分的に大きく変わってきています。今から3年前にあたる2015年7月に、CNNからこんな見出しのニュース記事が発表されました。

スペイン語人口で米国が世界2位に、スペイン本国抜く

記事の一部を以下に引用します(太字は引用者による)。

スペインに本部がある非営利機関「セルバンテス文化センター」は4日までに、米国がスペイン語人口でメキシコに次ぎ世界2位に浮上したとの新たな報告書を公表した。

米国でスペイン語を母国語とする人口は約4100万人、バイリンガル人口は約1160万人となっている。報告書は米国勢調査局や他の国々のデータに基づいている。

スペインの総人口は4770万人、コロンビアは4620万人で、米国は3億1890万人。報告書は米国勢調査局の数字を引用し、米国のスペイン語人口は2050年までに1億3280万人に達し、世界最多になるとも予想した。

つまり現在、USAという国は英語圏であると同時に、もはやスペイン語圏でもあるのです。そしてメキシコとUSAを合わせた2カ国で、世界最大のスペイン語圏を形成しているのです。

この事実を知っていると、「カナダ&USA」というセットだけで「北米」を理解するということはもはや通用せず、メキシコを加えた3カ国で考える視点と、場合によっては「USA&メキシコ」をひとつのセットとして理解する視点も必要になってくるということが分かります。例えば、あくまで個人的な印象ですが、USAで製作された映画やドラマにおいて、メキシコやメキシコ人を描くシーンが登場する頻度はこの10年でも明らかに上がっているように感じます。その象徴的な存在が昨年公開されたピクサー映画『リメンバー・ミー』で、この作品はもはや完全にメキシコを舞台にした、正真正銘のメキシコ人の物語です。米国文化・米国社会における「メキシコ」の存在感は年々、日に日に高まっているのです。

皆さん是非、まずはメキシコという国に関心を持ってみて下さい。良くも悪くも日本という国に最も大きな影響力を発揮し続けている米国と、常に互いに大きく影響し合っている隣国です。つまりメキシコを知ることは、米国をより深く知ることにも繋がります。

そしてもうひとつ。メキシコを知ることは、ラテンアメリカを知ることでもあります。スペイン語という一つの言語のもと時に濃く、時に緩やかに繋がった「ラテンアメリカ」という大陸の存在が見えてきます。ここまでくると、メキシコ以外の「中南米」の多くの国々も、もはや「よう分からん国々」ではなくなってきます。特にこれは個人的に確信していることなのですが、日本人は皆、一度はラテンアメリカと出会うべきです。良くも悪くも日本と対極な文化的特徴を持つラテンアメリカを知ることは、日本人の可能性を大きく拡げてくれます。だからこそ、その第一歩として是非、皆さんメキシコという国に興味を持ってみて下さい。

メキシコを知ることで、北米方向にも中南米方向にも我々の目が開かれるのです。

以上、メキシコは「中南米」じゃない、というお話でした。


【おまけ】映画『リメンバー・ミー』予告編


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